がん治療後の復帰をサポート

 病気の予防から治療、病気療養後の職場復帰まで、社内に常駐する保健師2人を中心に手厚くケアしているのがアシックスだ。同社は2015年に経済産業省と東京証券取引所が選定する「健康経営銘柄」に選ばれるなど、健康経営の先進企業として知られる。

 保健師が本社で働く社員850人と定期的に面談し、信頼関係を築くことで、健診の受診率100%を達成。さらに胃がんや肺がん、大腸がんなどの検診結果が要精密検査となった場合に再検査を受ける社員の割合も、2015年は100%に達した。がんが見つかるのは、年に0~2人程度。「早期に発見できたおかげで治療期間も短くて済む場合が多い」(保健師でアシックス総務部に所属する徳永唯氏)。

 精密検査の対象者が全員再検査を受けてくれたのは、書面で精密検査の結果について報告を求めていることに加え、もしもがんが見つかったとしても治療のための休職やその後の職場復帰で手厚い支援を受けられることを社員たちが十分に認識しているからだ。

 同社ではがんなどの病気やケガで年間5~6人が職場を離れ療養しているが、そうした社員の健康状態を把握するために、月に1度は病気療養中の社員と保健師が社員の自宅近所の喫茶店などで面談をしてもいる。

 主治医が復職可能と判断したら、復職後に「労働時間の短縮」「出張の制限」といった仕事面での制限が必要かどうかや、必要な場合には具体的にいつまで配慮すべきかを主治医に書面で回答してもらう。その上で産業医がその内容を確認して書面にまとめ直し、復職後に配慮が必要な事項について、復職する本人とその上司に同意をしてもらう。本人からは言いにくい業務負荷の軽減なども上司に明確に伝えられ、安心して職場に復帰できる。

 健康経営で先進的な取り組みをする企業は、社員の日常生活の改善や心身面で問題を抱えた際のケアに、「ここまでやるのか」と驚かされるほど関与している。その結果、仕事でも力を存分に発揮してもらえるようになる。単なる制度作りではなく、徹底するからこそ、会社も生産性の向上という果実を得られるわけだ。

人間ドックは働く人の身近な存在に

 健康診断の受診率100%を目指すのは当たり前の時代。人間ドックやがん検診などの補助を手厚くする動きが広がっている。

 ロート製薬は2016年度から、乳がんや子宮がんなどの検診費用を会社が全額負担するようにした。がん検診は、健診時に受けられる体制を整えているため、社員が外部の施設に予約する手間はかからない。ある工場では乳がん検診の受診率が昨年度の3割から6割に上がった。

 だが多くの企業では、人間ドックなどを予約するのは従業員個人。受診時間を確保するのが難しかったり、混雑で希望日に予約が取りづらかったりすることも支障となる。

 そんな人向けにここ数年で普及しているのが、人間ドックの予約サイトだ。最大手の「マーソ」は全都道府県800超の施設と提携し、検査プランや予約状況を分かりやすく明示。施設を問わなければ、翌日の予約も可能だ。予約は個人でするが、費用は勤務先の企業が一括で支払うといった法人契約も既に100社を超える。

 施設側でも、システムの改善で検査時間を短縮する動きが進んでいる。鶯谷健診センター(東京都台東区)では、人間ドックの所要時間が平均3~4時間。生活習慣病を中心とした検査プランは2時間半程度で済む。スタッフを多数配置して、検査の進捗をコントロールするなど、待ち時間を短縮するように努めているという。

待合スペースに専門スタッフを多数配置するなどして、検査にかかる時間を短縮し、ビ ネスパーソンなどが人間ドックを受けやすくした鶯谷健診センター

(日経ビジネス2016年6月6日号より転載)