職場で昼寝を推奨、退社後8時間は出社禁止、禁煙を強制─。従業員の健康を守るための企業の取り組みは、生活全般の改善に及ぶようになった。「健康経営」は単なる仕組み作りから、積極的な介入による実効性の向上へと進化している。

東京・渋谷にあるIT(情報技術)企業、GMOインターネットの本社オフィス。毎日午後0時半から午後1時半までの1時間、会議室が仮眠スペースへと様変わりする。照明を落としたスペースには従業員たちが次々と訪れ、デッキチェア状の簡易ベッドに横たわる。
「ここで仮眠を取ると、午後の仕事で頭がボーッとしなくて済むので助かる」。こう話すのは40代後半の男性社員。システムの保守を担当しており、週に1~2回、15~20分程度の仮眠時間を取るために利用している。
GMOインターネットがこうした取り組みを始めたのは2012年。同社は管理栄養士の助言を受けたメニューをランチビュッフェとして提供する24時間営業の食堂を設けるなど、以前から従業員の福利厚生に力を入れてきた。仮眠の推奨も、ITエンジニアなどに、疲れを取って午後の仕事を効率よく進めてほしいと考えてのことだった。
より良い睡眠のコツを伝授
社員の健康に気を配り、同時に仕事の生産性を高める「健康経営」の観点から、睡眠に着目する企業はGMOインターネットだけにとどまらない。
吉野家ホールディングスの中核子会社の吉野家は今年3月、ベンチャー企業のニューロスペース(東京都千代田区)が提供する「睡眠研修」という手法を導入した。睡眠研修とは、簡単に言えば少しでも満足度の高い睡眠の取り方を従業員に教える研修だ。この5月からはディー・エヌ・エー(DeNA)も同じ研修を採用した。
吉野家が導入した理由は、店長たちが昼夜の勤務シフトによって、睡眠のサイクルが乱れがちになるためだった。「起きた時に頭がぼんやりして、寝た気がしない」といった悩みを抱える店長が少なくないという。そうした現場の悩みは、店長からのたたき上げで吉野家ホールディングスのトップになった河村泰貴社長も十分に認識していた。
店長たちが抱える睡眠の悩みを解消するには、彼らの働き方に合わせた適切なアドバイスが必要となる。そこで睡眠研修ではまず、ニューロスペースのスタッフが15人以上の店長と個別に面談を行い、同社に多い睡眠に関する悩みを見つけ、その対策について店長たちを集めた場で発表した。
例えば、良質な睡眠を取るには、「ベッドに入ってからの最初の3時間が勝負の分かれ目となる」(ニューロスペースの小林孝徳社長)。ベッドの中でスマートフォンを操作するといった寝ること以外の作業をすると、ベッドを寝るための場所だと脳が十分に認識できなくなる。そのため、睡眠時のホルモン分泌のサイクルが狂うという。
「ベッドに入ったら何もせず寝ることに集中する」──。この鉄則を守るだけでも、不規則な睡眠サイクルから生じる弊害をかなり緩和できるといった実践的なアドバイスを、吉野家の店長たちは受けた。また、社内ネットワークの中に専用の掲示板を設置し、睡眠に関する悩みをニューロスペースのスタッフに相談できるようにもした。
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