漫画で企業理念を伝える

 この点でも、企業のIRには工夫の余地がある。というのも、株価や業績をきっかけに株を買う人は、目標の株価に届いたり、想定と異なる値動きを見せたりすると手放しがちだからだ。一方で、企業理念や事業の社会的意義を認め、株を持った投資家は目先の株価に一喜一憂せず、保有し続けてくれる傾向にある。

 企業向け情報システムを開発するテクマトリックスの森脇喜生・執行役員管理本部長は「米アマゾンや米グーグルのように消費者との接点があるIT(情報技術)企業なら理解してもらいやすいが、うちは完全なBtoB企業。分かりやすい情報提供が必須だ」と話す。

 象徴がウェブサイトで公開する漫画だ。同社の由利孝社長を模したキャラクター「由利くん」を登場させ、IT業界における黒子役としての同社の役割をコミカルに解説する。

 日本国内の上場企業の数はおよそ3500社。個人投資家にアピールするためには、まずその存在に気がついてもらう必要がある。そこでテクマトリックスはカタログギフトの株主優待を導入。食品などギフトの中身の選定作業には由利社長も加わっている。

優待銘柄は4割に迫る
●上場企業に占める優待の実施率と企業数
優待銘柄は4割に迫る<br/>●上場企業に占める優待の実施率と企業数
注:実施率は上場企業に占める優待実施銘柄の比率。2016年以外は8月末時点
出所:大和インベスター・リレーションズ

 年間数千万円の費用は、自社を知ってもらうきっかけとして必要なコストだと割り切っている。森脇管理本部長は「機関投資家と個人株主の適切な比率は模索中だが、十分な株式の流動性は生まれている」と手応えを口にする。

 このように、上場企業の間では個人投資家を呼び込むために、株主優待を充実させる傾向が強まっている。大和IRによると、今年4月末時点で株主優待を実施する企業は1281社。全上場企業の約35%で、過去最高を更新した。

コマツが3年以上保有の株主に贈る模型(上)。<br/>リコーでは抽選でラグビー観戦券も(下)
コマツが3年以上保有の株主に贈る模型(上)。
リコーでは抽選でラグビー観戦券も(下)

 かつては消費財や飲食関連の中小型銘柄で株主優待を強化する動きが目立ったが、NISA開始後はコマツ、リコー、オリックスなど大手企業による導入が相次いでいる。オリックスの今年3月末の個人株主数は約17万6600人で、1年前と比べて9割も増えた。

 上場企業の4割に迫るほど株主優待の導入が進んでいるのは、日本市場ぐらいだ。「一定以上の株数を持つ株主しか受け取れないのは『株主平等の原則』に反する」「その費用を配当や設備投資に回すべきだ」「機関投資家にコメや特産品を送っても仕方ない」といった批判は付きまとう。

 それでも、NISAと同様に個人投資家の関心を喚起する方法として効果的なのは間違いない。

投信低コスト化でNISA対応

 現在、NISA口座での総買い付け額は約7兆円。そのうち、投信分が約4兆5000億円を占めるとみられる。上場企業の行動に変化が表れたように、投信業界も投資初心者や若年層など新たな投資家の開拓に動いている。

4年前から急速に減少
●新規設定に占める毎月分配型投信の比率
4年前から急速に減少<br/>●新規設定に占める毎月分配型投信の比率
注:2016年は4月末まで
出所:格付投資情報センター

 その象徴が、「脱・毎月分配型投信」の動きだ。2011年頃には、月間に設定される投信の7割以上が毎月分配型という時期もあった。分配金を年金の足しにしたいという高齢者のニーズに合っていたためだ。しかし、2012年からその比率が落ち始め、今年は10%を切っている(グラフ「●新規設定に占める毎月分配型投信の比率」参照)。

 理由の一つは、商品特性がNISAに合わないからだ。毎月分配型には元本を取り崩して「特別分配金」として出す投信が少なくないが、この分はもともと非課税なのでNISAの恩恵を享受できない。分配金を払い出すと複利効果を得られず長期投資に向かないため、NISAとも相性が良くない。

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