ジュニアNISAで未成年株主も

 「貯蓄から投資へ」というスローガンが生まれたのは1996年。当時の橋本龍太郎内閣が提唱した一連の金融制度改革、いわゆる「金融ビッグバン」において、「個人資産1200兆円(当時)を預金から投資へ振り向けていく」という期待を込めて生まれた言葉だ。

 それから20年。この間、株式の売買委託手数料自由化、銀行による投資信託の窓口販売解禁、ネット証券の新規参入などが進められてきた。そしてNISAによって、「貯蓄から投資へ」という流れが加速している。

 証券会社や銀行で開く一般の口座では、株や投信への投資の利益には約2割の税金がかかる。NISAは当初5年間はこの税が免除される。日本国内に住む20歳以上であれば外国人でも利用可能で、今年から投資上限額が年間100万円から120万円に引き上げられた。「毎月10万円」という目安を示すことで、積み立て投資を促すのが狙いだ。

 今年4月には上限80万円で未成年向けの「ジュニアNISA」も始まった。長期投資による教育資金づくりを広めることが目的で、口座開設者が3月末に18歳を迎える年の元日まで、資金は原則引き出せない。銘柄の選択などは親権者が代行することが多いとみられるが、少なからぬ「未成年株主」が誕生したことになる。

 NISA口座の開設数は既に1000万を超えた。年間120万円×1000万口座。単純計算では、毎年最大で12兆円を市場に送り込むルートが存在していることになる。IR支援会社の大和インベスター・リレーションズ(IR)の中村聡・業務推進部長は「企業からの依頼件数は前年比2桁増が続いている。個人向けIRの依頼が特に多い」と話す。

60歳以上で6割を占める
●NISA口座買付総額の世代別内訳
60歳以上で6割を占める<br/>●NISA口座買付総額の世代別内訳
注:2015年9月時点
出所:金融庁

 NISA利用者に占める投資未経験者や20~40代の若年層の比率は右肩上がりだ。日本証券業協会の調べでは、2014年3月末に10.8%だった未経験者の比率は2015年12月末には22.9%へと倍増。同じく20~40代の利用者は22.8%から28.0%まで伸びている。

 これまで株式投資とは縁遠かった層が拡大していることで、上場企業は機関投資家や富裕層に偏重した姿勢を改める必要がある。野村インベスター・リレーションズ(IR)の高田明取締役は「一般的に個人は逆張り、機関投資家は順張りで動くので、売買タイミングが逆になりやすい。バランスよく両者を株主に取り込むことが株価の安定につながる」と指摘する。

 企業は個人投資家をどう取り込めばいいのか。知名度が低い中堅企業や、消費者との接点がないBtoB(企業間取引)の企業は頭を悩ませながらも、あの手この手でアピールしている。

投信に資金が集まる
●NISA口座の商品別内訳
投信に資金が集まる<br/>●NISA口座の商品別内訳
注:2015年9月時点
出所:金融庁

 日本アジアグループもその一社。地理情報データの作成、太陽光発電所、証券会社など一見相乗効果がなさそうな事業を抱えている。「外から見れば、何をやりたい会社なのか分かりにくいはず」と経営企画や財務を担当する渡邉和伸取締役も認める。

 同社がIRで重視するのは「共感」。機関投資家向けの資料であれば、ROE(自己資本利益率)などの説得力がある数字をそろえればいい。だが、「個人株主に長期保有してもらうには、定量よりも定性情報が欠かせない」(野村IRの高田取締役)。

 日本アジアは昨年、大手証券会社OBをIR担当部長として招き、個人向けの情報発信を刷新した。新たにまとめた「日本アジアグループのあるきかた」というパンフレットで は、事業ごとの売上高や利益などの数値目標を載せていない。その代わりに「日本とアジアの発展を担いたい」という、創業からの理念と事業の関連性を丁寧に説明した。

 個人投資家向け説明会も回数を増やし、オフィス街で午後6時以降に開催。軽食も用意している。ターゲットを年金受給者から会社員を含む幅広い世代に切り替えたためだ。「IRは短期で成果が出にくい。今後も説明会やIRイベントへの出展を続け、現状7018人の株主数を8000人まで増やしたい」と渡邉取締役は話す。

 企業がNISAで投資する個人を狙うのは別の意味もある。非課税期間は5年に及び、ロールオーバー(投資枠の翌年への持ち越し)を選べば最大10年まで延びる。NISAの利用者は理想的な長期株主の最有力候補と言える。

次ページ 漫画で企業理念を伝える