企業や商品のブランドを4つの因子で探り、総合力を評価する「ブランド・ジャパン」。今回は、2015年に会員向けサービスを次々に拡充したアマゾンが初の首位に立った。コクヨ、ニトリ、キヤノンなど、前年に比べて大きく順位を上げた企業も目立つ。
アマゾンプライムのサービスの1つとして始まった「プライム・ナウ」。最短1時間で商品を届ける
「本当に1時間かからずに届いた…」「風邪を引いていて動けないから助かった!」──。
アマゾンジャパンが2015年11月に開始した「アマゾン プライム・ナウ」。商品を最短1時間で届けるサービスは、瞬く間にツイッターなどのSNS(交流サイト)で話題になった。これまでアマゾンで購入する商品は早くて当日内の配達。それを商品数を限定して1時間で届けるようにしたのだ。
そのアマゾンが、「ブランド・ジャパン」のコンシューマー市場(BtoC)編の「総合力」ランキングで、前年の5位から順位を上げ、初めて首位を獲得した。特に主婦層など女性からの評価が高く、プライム・ナウをはじめとする会員向けサービスの「進化」が、ランキングに如実に反映された。
会員サービスを一気に拡充
プライム・ナウは、同社の「アマゾンプライム」の会員が対象。アマゾンプライムは2007年に始まり、年会費3900円を払えば、当日から翌日までに配達する「お急ぎ便」を常時無料で利用できることを売り物にした会員サービスだった。だが、「配送だけのために3900円を払うのは高いと感じる顧客もいたはず」(アマゾンジャパン)。同社は2015年、このアマゾンプライムのサービスを一気に拡充した。
“配送特典以上”のサービスに進化した「アマゾンプライム」
●アマゾンが国内で展開する主なプライム会員向けサービス(年会費は3900円)
*=2015年以降に開始したサービス
9月に映画やドラマなどの動画を見放題とする「プライム・ビデオ」と、低価格の商品を1箱でまとめて買うことができる「アマゾン パントリー」の提供を開始。11月には、100万曲以上の楽曲を聞き放題の「プライムミュージック」の提供を始めたのに続き、今年に入って写真を無制限に保存できる「プライム・フォト」も開始した。年会費は3900円のまま据え置きで、このサービス拡充がブランド力の向上にもつながったことがうかがえる。
加えて、顧客の検索率などを見ながら日々商品数を拡大し、サービスの「深化」に努めていることも、ブランド力向上に寄与している。2015年には、ワインストアやビューティーストアの商品数を増やし、見せ方も改善した。
アマゾンは2009年以降、常に95%以上のブランド認知率を維持してきた。認知度の高さに加え、事業領域や顧客接点の拡大を継続してきたことが奏功し、総合的なブランド力で首位に立ったと言えるだろう。
コンシューマー市場(BtoC)編の「総合力」ランキング
米IT関連が上位3ブランドを占めた
順位 |
(前回順位) |
ブランド名 |
1 |
(5) |
Amazon アマゾン |
2 |
(7) |
Google |
3 |
(2) |
YouTube |
4 |
(9) |
キユーピー |
5 |
(13) |
TOYOTA トヨタ自動車 |
6 |
(23) |
UNIQLO ユニクロ |
7 |
(24) |
CUP NOODLE カップヌードル |
8 |
(6) |
Häagen-Dazs ハーゲンダッツ |
9 |
(40) |
テレビ東京 |
10 |
(20) |
Panasonic パナソニック |
11 |
(8) |
Disney ディズニー |
12 |
(4) |
STUDIO GHIBLI スタジオジブリ |
13 |
(1) |
7-ELEVEn セブン-イレブン |
13 |
(34) |
Microsoft マイクロソフト |
15 |
(41) |
DAISO ダイソー |
16 |
(59) |
ITOEN 伊藤園 |
17 |
(96) |
kikkoman キッコーマン |
18 |
(12) |
USJ ユニバーサル・スタジオ・ジャパン |
19 |
(42) |
glico 江崎グリコ |
20 |
(84) |
Windows |
21 |
(96) |
KOKUYO コクヨ |
22 |
(33) |
Calbee カルビー |
22 |
(90) |
ニトリ |
24 |
(29) |
iPhone |
25 |
(3) |
NISSIN 日清食品 |
26 |
(70) |
Canon キヤノン |
27 |
(14) |
SUNTORY サントリー |
28 |
(9) |
Apple アップル |
28 |
(25) |
dyson ダイソン |
30 |
(134) |
日本テレビ |
31 |
(18) |
MOS BURGER モスバーガー |
32 |
(25) |
MUJI 無印良品 |
33 |
(84) |
Asahi SUPER “DRY” アサヒスーパードライ |
33 |
(63) |
お~いお茶 |
33 |
(22) |
楽天市場 |
36 |
(99) |
Tカード |
37 |
(11) |
セブン&アイ・ホールディングス |
38 |
(16) |
KIRIN キリンビール |
39 |
(19) |
LAWSON ローソン |
40 |
(36) |
AEON イオン |
41 |
(109) |
BAND-AID バンドエイド |
42 |
(128) |
COOKPAD クックパッド |
43 |
(57) |
価格.com カカクドットコム |
44 |
(71) |
adidas アディダス |
44 |
(31) |
NIKE ナイキ |
44 |
(93) |
NESCAFÉ ネスカフェ |
47 |
(44) |
AJINOMOTO 味の素 |
48 |
(49) |
STARBUCKS スターバックス コーヒー |
49 |
(29) |
Nintendo 任天堂 |
49 |
(94) |
ヤマト運輸 |
調査概要
監修は、日経BPコンサルティングが設立する「ブランド・ジャパン企画委員会」。調査機関は日経BPコンサルティング。2015年11月11日~12月6日の間にインターネット利用者に対して、独自の調査システムを用いて、ブランドのポジショニングを明らかにする設問への回答を求めた。
コンシューマー市場(BtoC)編の調査対象は企業ブランド(企業名・グループ名)と製品・サービスブランドの合計1000。「フレンドリー」「コンビニエント」「アウトスタンディング」「イノベーティブ」の4つの「因子」から総合力をランキングした。18歳以上の男女の調査対象者からの回収数は3万6332。ビジネス市場(BtoB)編の調査対象は、企業ブランドのみ500ブランド。18歳以上の有職者からの回収数は2万224。
キユーピーが「国内」最上位
国内ブランドとして、最も高い評価を得たのがキユーピーだ。総合力ランキングは、昨年の9位から4位に上昇した。総合力を決定する4つの因子、「フレンドリー(親しみ)」「コンビニエント(便利)」「アウトスタンディング(卓越)」「イノベーティブ(革新)」のうち、キユーピーはコンビニエントで初めて首位を獲得した。
キユーピーは2015年、ノンオイルドレッシングを刷新し、コクやうま味を増して満足感のあるシリーズを発売した。また、生野菜を付けて食べられる、使い切りの容器に入ったディップソースの種類を増やすなど、野菜をおいしく食べるための商品を出していることがランクアップに寄与した。
テレビCM(コマーシャル)もブランドイメージの維持や向上につながったとみられる。2015年、主力商品の「キユーピーマヨネーズ」が90周年を迎えたことを記念し、特別CMを制作。歌手で俳優の福山雅治さんが特別に書き下ろした楽曲を流したことなどが、ブランドイメージの向上に結び付いた。
日清食品の「カップヌードル」は前回の24位から7位に上がり、商品ブランドとしては最も高い順位となった。企業名である日清食品は前回の3位から25位に下降したが、日清食品のズナイデン房子・取締役マーケティング部長は「想定内」というスタンスだ。「若者がカップヌードルを自分のブランドであると実感してもらえるような仕掛けを、2013年から繰り出してきた。こうした成果が表れ始めた」。
ブランドの“老化”に危機感
10~20代の若者に「カップヌードルは自分たちのブランドである」と実感してもらうための広告を強化。ツイッターやフェイスブックでの露出が増えた
カップヌードルは今年45周年を迎えるロングセラー商品。だが、社内では危機感が広がっていた。「カップヌードルが時代とともに年を取ってしまい、今の若者には自分たちのブランドという認識がなくなっている」。日清食品の安藤徳隆社長は昨年の社長就任後、本誌にこう語った。
もう一度、若者にカップヌードルを自分たちのブランドであると捉えてもらうには、どうしたらいいのか。日清食品はここ数年、商品ラインアップを強化してきた。これまでになかった「トムヤムクン」などの風味を次々に発売。2015年には、定番のカップヌードルの具材を刷新して、ファンが「謎肉」と呼ぶ肉を復活させたことがツイッターなどで話題を呼んだ。
さらにメッセージ性の強いCMを打ち出した。ズナイデン取締役は「若者は『さとり世代』『おとなしい』と言われるが、仲間と騒ぐ様子などを動画で撮影してYouTubeにアップするなど、自分たちで楽しんでいる。大人には理解できなくても、若者の心に響くCMを作れば支持されると思った」と話す。
反響が大きかったものの一つが、カップヌードルブランドとして初めて発売したパスタ「パスタスタイル」のCMだ。パスタの本場イタリアに行って、イタリア人が商品を食べる様子を撮影。「もうイタリア人に認めてもらうのはあきらめた」というネガティブなキャッチコピーが若者に支持され、ツイッターやフェイスブックで反響を呼んだ。
カップヌードル関連のメディア露出を広告費に換算した額は2015年、前年比71.1%増となった。「カップヌードルや日清の話題が、気が付けばいつも自分たちの周りに飛び交っていると、若者に思ってもらえるようにしたい」。ズナイデン取締役はこう話す。
総合力で96位から21位と急伸したコクヨ。因子別の伸びで目立ったのが「フレンドリー」だ。
数量限定でユニークなデザインのノートを作り、文具を買い、使うことを楽しい思い出に変える。一番右は「和ごむ」でその隣が使用例(写真=渡辺 慎一郎)
年間1億冊を販売する看板商品「キャンパスノート」の発売40周年を記念し、同じく30周年の節目を迎えていた任天堂の人気ゲーム「スーパーマリオブラザーズ」とのコラボレーション企画を実施した。ゲームに登場する「マリオ」など6つのキャラクターを表紙に使った20万冊限定の「限定柄キャンパスノート<マリオ>」を2015年11月上旬に発売。アマゾンでわずか2日で完売するなど、話題を集めた。
コクヨは2009年から、「コクヨの製品を使って楽しかったり、役に立ったりしたという思い出の提供」(コクヨ ステーショナリー事業本部企画本部の白石良男・広報宣伝部長)に力を入れてきた。文具の総アイテム数は1万点もあり、個別の販促は難しい。その代わりに、コクヨの製品を使った「良い思い出」を残すことで長期的なファンを増やそうとしている。
ノートの表紙を飾り付ける「デコノート」の体験講座を開いたり、成績アップにつながるノートの取り方をホームページ上で紹介したりするなど、地道な活動を展開。「スーパーマリオブラザーズ」とのコラボレーションも、コクヨ製品とともにある楽しい経験の提供であり、一貫したブランド戦略が奏功したようだ。
2015年10月に数量限定で発売したゴムバンド「和ごむ」と、絵の具「なまえのないえのぐ」。この2つの商品は、デザイン面などでユーザー目線を学ぶために2002年から開催する商品アイデアの公募イベント「コクヨデザインアワード」で過去に入賞した作品を商品化したもので、そのユニークさがネット上などで話題になった。
和ごむは贈答品を包む紙袋を蝶結びにする時に使う飾りひもを模したゴムバンド。小物などを人に贈る際に使えば、感謝の気持ちを簡単に表せる。なまえのないえのぐはシアン、マゼンタ、イエローの3原色の配合比率のみで、10色の絵の具を表現した。日頃はコクヨ商品を指名買いしない一般の消費者にも、ブランドを浸透させる効果があった。「和ごむ」は定番商品の一つとして販売を継続している。
「ニトリ=安い家具」を払拭
家具以外の商品の認知度アップが、ニトリブランドへの関心を高めた。女性が手に持っているのが、「ニトスキ」の愛称で親しまれている「スキレット鍋」(写真=中山 博敬)
「アウトスタンディング」の因子のうち、「他にはない魅力がある」という項目で評価が大幅に伸びたのがニトリだ。総合力ランキングでも順位が90位から22位に上昇した。その要因が、都市部への出店と家具以外でのヒット商品の存在だ。
ニトリホールディングスは2015年2月に東京・池袋に生活雑貨を中心に扱う店「ニトリデコホーム」を出店。同社の店舗としては、JR山手線の内側への初めての進出で、続く4月には東京・銀座に「ニトリ」を出店した。
こうした駅に近い立地に、2015年だけで9店を出店。これまで社名や店舗名は知っていても、実際に店を利用したことがなかった層を呼び込むことに成功した。その結果、「ニトリ=安い家具というイメージがあったが、実は家具の売り上げは全体の42%で、残りの58%は布団や食器といった家具以外の商品である」(玉上宗人執行役員)ことが認知され、家具以外の商品に興味がある消費者の関心を高めた。
同社が扱う商品の点数は1万点。そのうち約9割がPB(プライベートブランド)。中間マージンを排除し、手頃な価格で提供できることが強みで、象徴的なのが2015年2月に発売したスキレットと呼ばれる鋳鉄製フライパンだ。
スキレットは保温性が高く冷めにくいため、調理後にそのまま食卓に出せる。自宅でおしゃれなビストロやカフェの気分を味わえると、最近注目されている調理器具だ。
その中で、同社の「スキレット鍋」は直径15cmのタイプで462円(税別)の安値を実現。「ワンコイン(500円)で買える」とSNS上でも話題になった。
ブランドの専門部署を設置
印象深いフレーズを使ったプリンターのテレビCMや5060万画素のデジタル一眼レフ「EOS 5Ds」などでブランドが認知された
キヤノンは総合力ランキングを70位から26位に押し上げた。4つの因子別では、「イノベーティブ」が112位から33位に、「アウトスタンディング」が142位から30位に上昇した。
革新性や卓越性を示す項目であり、デジタルカメラやプリンターなど、ある程度成熟した製品に強みを持つ同社だけにやや意外な感もある。だが、キヤノンの野口一彦・執行役員渉外本部長は「この1年、突き抜けた商品を市場に送り出してきた成果」と胸を張る。
その一つが、2015年6月に発売したデジタル一眼レフカメラ「EOS 5Ds」だ。一般的なデジタル一眼レフが2000万画素程度なのに対し、5060万画素での撮影を実現した。「フランスの街並みを撮影した広告を見たお客様から、『この写真がほしい』という要望が来た。キヤノンが性能の高いカメラを出している姿勢が伝わった」(野口執行役員)。
カメラと並ぶ主力製品であるプリンターでもブランド力を高めた。スマートフォンをプリンターにかざすだけで画像を印刷できる「PIXUS MG7730」だ。テレビCMの「サル!撮る!年賀状!ピッ!」という耳に残るフレーズで、幅広い層に商品機能を印象付けた。
キヤノンでは、2013年に立ち上げたコーポレートブランド推進部が、自社商品や企業ブランド全般を管理する。2015年11月に東京国際フォーラムで開いた「Canon EXPO 2015 Tokyo」。同部署が方針を打ち出し、販売代理店など来場したパートナー企業の関係者に積極的に技術情報を開示した。
「8Kカメラで撮影した動画を前方と左右に投影し、まるで電車の車内に座っているような感覚にさせるなど、ユニークな展示を多くした。多くのメディアで報道され、一般消費者にも新分野に取り組んでいる印象を持ってもらえたのではないか」とコーポレートブランド推進部の花田一成部長は語る。
トヨタ自動車は総合力ランキングで13位から5位に上昇した。特筆すべきは、商品ブランドで対象となった小型車「AQUA(アクア)」の458位から195位への急上昇だ。
ドラゴンクエストの世界観をイメージした風景に「アクア」を走らせ、20 ~40代前半のドラクエ世代に車種のイメージ向上を図った
アクアがブランド認知を高めた主な要因は、ゲームソフト「ドラゴンクエスト」を大胆に取り入れたテレビCMだ。2014年12月のモデルチェンジ以降、CMにドラゴンクエストの楽曲を使い始めたことが、20~40代前半のドラクエ世代の心を刺激した。
アクアの広告宣伝を担当するトヨタマーケティングジャパン プロモーション室の齋藤隆幸主任は「主なターゲットがドラクエ世代と重なることから、その層に振り向いてもらい、ツイッターなどSNSでどう話題にしてもらえるかを意識した」と狙いを説明する。
「地道な活動も知名度向上に寄与した」と齋藤主任が胸を張るのが「AQUA SOCIAL FES!!」と呼ぶ一般参加型のイベントだ。これは全国各地の海や川を清掃したり、生態系を壊す外来種を駆除したりして水辺の環境を守るというもの。開始から4年間で400回、延べ5万人の参加者を集めた。
イベントではアクアの実車を置く程度で営業活動は一切行わないが、「顧客として想定している20~30代の参加者が多く、今後のクルマ選びの際にいいイメージを持って選択肢に入れてもらえる」(齋藤主任)。広告宣伝と草の根活動の双方がうまくかみ合っている。
「顧客との共創」でパナソニックが飛躍
ビジネス市場(BtoB)編は、500の企業ブランドを対象に有職者2万224人に調査した。「先見力」「人材力」「信用力」「親和力」「活力」の5つの因子で「総合力」を評価している。
1位は5年連続でトヨタ自動車となったが、着目すべきは2位のパナソニックだ。2014年の24位、2015年の4位から着実に順位を伸ばした。
1位は5年連続トヨタ自動車
●ビジネス市場編の「総合力」ランキング
順位 |
(前回順位) |
ブランド名 |
1 |
(1) |
TOYOTA トヨタ自動車 |
2 |
(4) |
Panasonic パナソニック |
3 |
(4) |
Google |
4 |
(3) |
ANA 全日本空輸 |
5 |
(17) |
SONY ソニー |
6 |
(7) |
Apple アップル |
7 |
(20) |
HONDA 本田技研工業 |
8 |
(6) |
SoftBank ソフトバンク |
9 |
(9) |
セブン&アイ・ホールディングス |
9 |
(32) |
Nintendo 任天堂 |
「2011年、2012年と巨額の赤字を出し、もう一度自分たちの進むべき道を明確化した」。そう語るのはパナソニックのコーポレートブランドプランニング部の加藤知之部長だ。2期連続で7000億円以上の赤字を計上した同社が、進むべき道としてフォーカスしたのが、BtoB市場だった。2013年以降に取り組んだ主な施策は2つ。一つは事業領域を明確化したブランド戦略、もう一つは挑戦する姿勢を社内外に「見える化」することだ。
「住宅」「車載」などBtoBの事業領域については、ロゴ下に副題を据えて訴求。同社が社名下にこうしたロゴを付帯するのは初めてのことだ
パナソニックは「国内でも海外でも『家電メーカー』としてのイメージがずっと強かった」(加藤部長)。当時、テレビを中心としたコンシューマー製品の売り上げ比率は、同社の総売上高の3分の1程度。実態としては既にBtoBが主力事業になっているにもかかわらず、訴求が十分ではなかった。そこで、「住宅」「車載」「BtoBソリューション」といった商用向けサービスについては、パナソニックロゴの下にそれぞれのブランドカラーで副題を付けた。車載であれば、パナソニックロゴの下に「AUTOMOTIVE(オートモーティブ)」とエメラルドグリーンの副題が付く。パナソニックとして副題を付けてブランドを展開するのは初めてのこと。展示会や名刺などを通じてパートナー企業に対して認知を図ることで、徐々に事業認知の向上につながっているという。
もう一つの「見える化」の主軸となるのが「Wonders!(ワンダー)」というキーワードだ。津賀一宏社長は2013年9月、キーワード制定について自らのブログでこう語った。「変革を牽引するキーワードとして(中略)制定しました。この言葉には社内に漂う閉塞感から社員の皆さんを解き放ち、『自ら変わろう』、『お客様が驚くような新しい発想を生み出そう』といった行動を後押ししたい、との思いを込めています」。
キーワードの制定によって、提供するサービスを仕様や社内論理ではなく、顧客が感動するかどうか、お客様がどう感じるか、といった視点で評価することを社内に植え付けた。
ワンダーというキーワードの下、見える化施策にも次々と取り組んだ。例えば、「Wonder賞」という賞を設定し、放送作家の小山薫堂氏など6人の審査員、一般消費者100人、社内3892人の評価からその年に「変革を示した」サービスや商品を表彰した。
パナソニックが開催した「Wonder Japan Solutions」の様子。開発中の技術をパートナー企業などに見せる同社初の試みとなった
2015年2月には「Wonder Japan Solutions」と銘打ったイベントを開催。同社の開発中の新技術をプロトタイプとして展示し、パートナー企業などにプレゼンテーションを実施した。開発前の商品を並べた展示会を開くのは同社初の試みだ。2回目の今年は政府関係者なども含め、3000人以上が来場したという。
こうした取り組みが、今回の2位というランキングに反映されている。「信用力」というBtoBの因子のうち、「信頼できる」「品質技術が優れている」という項目、また「活力」という因子のうち、「チャレンジ精神がある」「エネルギッシュである」などの項目の上昇率が大きかった。
「BtoBビジネスを加速させるには、『競争』ではなく、『共創』をする必要がある」と加藤部長は強調する。
日経ビジネス2016年4月18日号より転載
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