東京都中央区にある味の素の本社ビル(写真=北山 宏一)

 味の素は5月から本社ビルの消灯時刻を、ノー残業デーを実施している水曜日に限り現行の午後8時から午後6時に前倒しすることを決めた。7月からは、それ以外の日も午後7時に1時間前倒しする。来年からは、給与を減らさずに基本就業時間も20分短縮する予定だ。「生産性向上に対する社員のモチベーションが高まることを経営陣も期待している」と人事部の森卓也・労務グループ長は話す。

 残業を減らせば、それだけ多くボーナスがもらえる。そんな施策を打ち出したのは大手システム開発会社のSCSKだ。

 2011年に社長に就任した中井戸信英・現相談役の下、「残業半減」を目標に設定。達成した部門に賞与で還元する仕組みを導入した。結果は順調で、「2014年度には全社員の平均残業時間は、対策実施以前の約35時間から18時間台まで軽減できた」と人事企画部長の小林良成理事は話す。

NTW Inc.では毎日12時に仕事の進捗を確認(写真=北山 宏一)

 電子部品商社のNTW Inc.(安田隆社長、東京都千代田区)は、残業しそうになった社員が周囲の社員に助けを求める「12時ツイート」を実施している。文字通り、同社の社員は毎日正午、その日の仕事が順調か周囲に口頭でつぶやく。同社のオフィスを訪れた4月26日も、昼12時になるとあちこちから「私、困っています」「私は大丈夫です」といった声が上がった。

 東京都中央区にある介護事業のシステム開発や人材派遣を手掛けるセントワークスも、社員の業務の進捗を細かく管理し残業を防ごうとしている。社員は毎朝、出社するとその日の予定を書いた「朝メール」を部署の全社員に送付。また、残業禁止日には社員は退社時刻を示すマントを着て残業する。

退社時間を示すマントを着るセントワークスの社員

 一方、名古屋市にあるIT(情報技術)ベンチャー、Misocaの豊吉隆一郎社長は、自ら残業ゼロを続けることで、残業増加に歯止めをかけている。「トップが効率的な仕事を心がけていれば、会社全体もおのずとそうなる」(豊吉社長)。東京都中央区にある化粧品会社ランクアップも、トップ自ら長時間労働をなくし、ほぼ残業ゼロを実現した企業。「今年3月の社員の平均残業時間は3時間。5時間残業した社員が残業の多いトップクラスにいる状況」と岩崎裕美子社長は話す。

 大企業からベンチャーまで、まさにあの手この手で残業削減に立ち向かっている日本企業。だが、他の一般的な企業が、結果を出しているこうした先進企業の取り組みを形だけまねしても、まずうまくいかない。だからこそ、日本人の総労働時間は20年前と同じなのだ。

「抜け穴はいくらでもある」

 歌を聴いて「仕事に区切りをつけねば」などと感じてくれる社員ばかりではない。「ウチにも就業時間の終わりを告げる放送が流れるが、皆、何食わぬ顔で仕事を続行している。自分もそう」(IT、20代)。

 一見、効果がありそうな強制消灯も「自前の電気スタンドを持ち込んだり、一回退社したように見せかけて戻ってきたり、抜け穴はいくらでもある」(流通、40代)。

 残業しそうな社員を他の社員が手伝う方法についても「仕事が終わらないから残業している社員だけじゃない。意味もなく残業している社員には効果なし。仕事なんてその気になればいくらでも増やせる」(製造、50代)。

 残業削減社員の賞与を増やす方法も高収入の社員には効き目が薄い。「年収が100万円、200万円変わってくるならまだしも、わずかな額なら今の仕事のやり方を変えようとは思わない」(金融、50代)。

 経営層の中には、自社の残業削減策がいかに無意味か、どこか自慢げに話す現場社員たちに、混乱する人もいるはずだ。「そもそも君たちは、残業したくないのではなかったのか」と。

 実はその疑問にこそ、日本企業が昭和の時代から残業を減らすことができない真の理由がある。働き方に詳しい専門家の意見を基に、編集部がたどり着いた新説を説明しよう。