カエル跳びの市場

MPTは自社ブランドのスマホなどを扱う専門店を130店展開。僧侶が来店することも

 「先進国で経験したプロセスを飛び越えたスマホの普及。リープフロッグ(ジャンプするカエル)の市場と呼んでいる」とKDDI出身の雨宮俊武MPT・CEO(最高経営責任者)は説明する。

 固定電話の普及率は5%程度。インターネットの固定回線もほとんどの地域で未整備であるが、携帯電話の基地局整備を背景に、スマホだけがいち早く普及した。LTE(高速通信サービス)も一部地域で利用が始まっている。

 当然、日本のやり方は通用しない。そこで、MPTは携帯キャリアの枠を飛び越え、昨年9月からオリジナルブランドのスマホ端末を販売している。

 端末価格は約3000円と同国でも最も安い水準とした。しかも、購入者には通話料割引などを通じて購入代金分を還元する実質無料作戦に打って出て、最初に用意した数万台はすぐに売り切れた。自ら価格破壊を仕掛け、カタール系やノルウェー系のライバル外資キャリアに勝負を挑む。受け身の姿勢にとどまっていない。

ミャンマー語で文字入力できるアプリが開発されたことで、スマホが急激に普及した

 ミャンマーはインド、中国、タイなどアジアの有力国に囲まれている。軍事政権時代は中国政府との結びつきが強かったものの、スー・チー、オバマ会談を経て米政権との関係改善も模索し始めた。政治と経済の両面で、極めて重要なポジションにある。

 人口5100万人と消費市場としての期待度も高い。その7割はまだ農村部に居住しており、今後も安価な労働力を都市に供給する余地もある。

 「映画『ALWAYS三丁目の夕日』の題材となった昔の日本のような、国全体が伸びる期待感がある」と、ミャンマー日本商工会議所の隅良太郎会頭は話す。

 これまでのところミャンマーへの進出は日本勢が先行しているが、うかうかとはしていられない。米制裁解除を受け、世界の投資家がそのポテンシャルに目を付け始めたからだ。ティラワ工業団地の運営会社社長の梁井崇史氏も「欧米企業の入居検討が増え始めた」と話す。

 街の風景も少しずつ変化している。ヤンゴン中央駅前の敷地に最近、巨大な柵が突如として張り巡らされた。三菱地所と三菱商事が中心となり、オフィスビルなど計4棟、総延べ床面積約20万平方メートル超という大規模不動産開発プロジェクトを立ち上げた。

ヤンゴン中央駅前の大規模開発は街の様子を一変させる

 竣工予定の20年度には、複数の外資系企業による50~100人規模の入居を想定しているという。近隣ではシンガポールの不動産大手ケッペル・ランドも大規模なオフィスビルの開発計画を進めている。

 11年にテイン・セイン前大統領が経済改革を打ち出し、ミャンマー投資ブームが起きたものの、多くは先行投資の域を出ていない。スー・チー政権は欧米との結びつきを強め、世界からマネーを呼び込む狙いが明確にある。ブルーオーシャンのミャンマー市場も、大競争時代の到来は時間の問題だ。

 リスクを取ることで一歩先んじて市場に参入した日本勢。この一歩が後々、大きな意味を持つかもしれない。

天然ガス・ヒスイ、資源大国の顔も

 ミャンマーは「隠れた資源大国」という顔も持つ。下の図の通り、最も輸出比率が大きいのは天然ガス。3位には鉱物が続き、これら2項目で全体のほぼ半分を占める。

天然ガス鉱物が輸出の約半分を占める
●2015年度の品目別輸出比率
出典:ミャンマー中央統計局

 近年では海上鉱区の国際入札が実施され、資源探鉱が本格的に始まった。2016年には南部の海域で国内最大規模の天然ガス田も発見された。

 しかし、潤沢な資源を生かし切れていない側面もある。天然ガスの大半は隣国の中国やタイへパイプラインを通じて輸出している。一方、電力不足に悩む国内への供給体制は整っていない。

 鉱物では、ヒスイ(下写真)が世界最大の産出量を誇るものの、近年の相場下落で関連産業は大打撃を受けている。

(写真=Chau Doan/Getty Images)

 スー・チー氏は「資源はいずれ枯渇する」と訴え、工業化政策を重視する。ただ、現在の主要産業である縫製品ですら、輸出全体に占める割合は8%弱にとどまる。

 欧米との関係改善や投資関連法の改正など一連の動きの背景には、資源に依存する経済構造からの脱却を急ぐスー・チー氏の焦りが隠されている。

(日経ビジネス2017年4月10日号より転載)