希少性+低原価なら万全

 「潰れそうで潰れない店」の中には、辻野帽子店のような希少性と、馬場寝具店のような低原価の両方の性質を兼ね備えた店もある。

 福岡県久留米市。シャッターを下ろす店が目立つ典型的な地方商店街、西鉄久留米駅近くの「ベルモール商店街」に、ぼたんやという洋裁店がある。固定客は今や300人ほどしかいないが、82歳の加藤幸恵社長は昭和30年代から現在まで安定した経営を続けてきた。

店主の加藤幸恵社長(左)と娘の三角恵 さんは面倒な縫製を、一手に引き受ける

 強みの一つはやはり希少性。「専業でやっているのは久留米ではうちくらい」と加藤社長は話す。計算上の希少性は「人口30万人、200平方キロメートルに1軒」と辻野帽子店ほどではないが、1万種類以上の在庫を抱え、60年前から店頭に並ぶボタンもあるほど。東京からも洋裁マニアが買い付けに来る。

 事業コストも低い。主要顧客の一つが洋裁教室に通う生徒たちだ。洋裁の場合、ある程度基礎を積めば、シャツやカーディガンなどを縫うこと自体はできる。が、ボタンホールを作る「穴かがり」など、特殊な技術の習得には時間が必要で、生徒には荷が重い。

 そこで、加藤社長らが地域の洋裁教室を回り、穴かがりなどの作業を請け負う。これがボタンの販売以上の利益を生む。

「ここだけの技術」のうまみ

 単価は1個100円。だが原価は糸代だけで、馬場寝具店の打ち直し・洗い同様、ほぼ技術料。穴かがり以外にも、ぼたんやには、クリーニング店が顧客のボタンをなくした際に、全く同じものを復元する技術など「ここでしかできないサービス」が数多くある。

 希少性が高く、低原価な商売は他にもあるに違いない。だが、人口急減が避けられない今後の日本では、並みの珍しさと利幅では、市場成熟の波に確実に洗われる。

 その意味で、成熟極まる市場で小さな店が永続する条件の一つはまず、「30万人に1軒」「利幅9割」といった、究極の希少性と利益率を有することになりそうだ。

 もっとも、そうなると、縮小市場で生き残るのは超ニッチ・超高付加価値店だけになってしまう。が、今回の取材では、極めてオーソドックスな業態ながら事業をたくましく存続させ続けている「潰れそうで潰れない店」も発見した。その秘密を一言で言えば、「地域と助け合っているから」となる。

 急速な過疎化が進む沖縄。中でも名護市以北のヤンバル地区は、コンビニエンスストアさえまばらな地域だ。その最北端、那覇市内から車を2時間ほど走らせた場所にある国頭村の集落「奥」に、その店はある。

那覇から2時間以上かかる奥共同店とその店内

 外観、店内とも年季が入っており、お世辞にも繁盛店には見えない。実際、1日の平均客数は100人ほど。それでもこの「奥共同店」は1906年の設立から110年、歴史の荒波にもまれながらも商売を存続させてきた。品ぞろえは日用品や食料など小さなスーパーマーケットと遜色なく、ニッチ業態でも何でもない。

 典型的な過疎地で、かつオーソドックスな業態でありながら商売が続く秘密を探る前に、「共同店」という沖縄独特の業態を解説しておこう。

 共同店は文字通り、集落の全世帯・全住民が出し合った資金を元に共同運営する仕組みを取る。戦後に都市化が進む中で急減したが、かつては本島全域に普及していた。今もヤンバルをはじめ交通の便が悪いエリアや、宮古島などの離島に点在する。

 運営方法は店ごとに違いはあるが、原則として集落に移り住んだ者は自動的に組合員となり、組合費の納付が求められる。産まれたばかりの赤ん坊も同様で、出生してから一定期間に親が加入金を支払わねばならない。多くの場合、組合費は一生に一度、納付すればよく、店の運営は住民から選ばれた代表者が担う。

 そんな共同店が存続する上で何よりネックとなるのは、大半が過疎地にあるが故、客足が極端に少ないことだ。奥共同店の1日100人はまだ多い方で、冒頭の写真で紹介した伊部共同店(国頭村)に至っては「1日5人の時もある」(店主の名嘉山スエ子さん)という。

6軒しかない集落のために日用品は一通りそろえる。狭い店内に所狭しと商品が並び、名嘉山スエ子さんが1人で切り盛りする

 それでも店が存続できるのは、販売価格を高く設定しているからだ。

 奥共同店の場合、例えばカビ取り剤「カビキラー」が525円(税込み)、風呂用掃除剤「バスマジックリン」が360円(同)と、とある東京のドラッグストアの価格(約330円、約250円)に比べ4~6割高い商品もある。この価格差が、少ない客足をカバーする原資となる。

 もちろん、約180世帯ある奥共同店の常連客は、最も近い都市部である名護に行けば、もっと安く買い物ができることを知っている。だが、現実には行かない。

 共同店の利用者の中心である高齢客はほぼ、車を持っていないからだ。名護へ行くには唯一の公共交通機関であるバスを利用せざるを得ず、往復で3時間はかかる。その手間を考えれば多少高くても共同店で買い物した方がはるかに楽なのだ。

皆が少し我慢することで皆が得する
●沖縄の「共同店」の経営モデル