北海道から客が訪れる理由

 もちろん、ただ珍しい帽子が欲しいだけなら、今の時代、通販で購入することも可能。この店に「遠くは北海道からも熱烈なマニアが訪れる」(辻野取締役)のは品ぞろえもさることながら、ここでしか受けられないサービスがあるからだ。フィッティング(帽子のサイズ調整、かぶり方指導)である。

 現在、帽子の多くはフリーサイズで売られている。が、辻野取締役は「人間の頭の形は千差万別で、顔の左右非対称ぶりも様々。本来なら1cm単位でサイズを合わせ、かぶり方を決める必要がある。フィッティングなしには、どんな人でも本当の意味で帽子は似合わない」と強調する。

 本気でフィッティングサービスを提供するには、見立てる技術に加え、大量の在庫が必要になる。だから、効率重視の大手流通業者はフィッティングなどしないし、フリーサイズの帽子しか扱わない。

 だが、辻野取締役は「それでは日本からまっとうな帽子文化が消えかねない」とばかりに2階の倉庫に膨大な在庫を確保。500人の帽子愛好家もそんな同店の姿勢を断固支持している。これが、辻野帽子店が、潰れそうで潰れない最大の理由だ。

 圧倒的な希少性を武器に、客が少なくても高収益を維持している店がある一方で、徹底的な低原価で利幅を確保している店もある。さいたま市にある馬場寝具店はその一つだ。

馬場宏社長は1週間無料で 貸し出して寝心地の良さを体 感してもらう(写真=北山 宏一)
(写真=北山 宏一)

 1946年開業の同店も、辻野帽子店に負けず劣らず、店では閑古鳥が鳴いている。商店街から外れた場所にあり、一見の客がふらりと店に入り購入することはほぼ皆無。それでも店には馬場宏社長と、2人の子供が働いており、「おかげさまで、全員が普通に暮らしていくだけの商売を続けさせていただいている」(馬場社長)という。

 約2000万円という年商でそれが可能なのは、それだけ事業コストが低いからだ。

 収入の柱は、約500人いる固定客を対象にした布団の「打ち直し」と「洗い」。打ち直しとは布団の中の綿を詰め直すことで、洗いは文字通り、布団に染み付いた汗や汚れを洗うことだ。料金はシングルサイズで6480円(税込み)からだが、発生するコストは洗剤代とクエン酸代、水代、綿代程度。料金の大半は技術料だ。

 また、500人の固定客は10~15年に1度という低頻度ながら、布団を確実に買い替える。いずれも平均単価20万~40万円の高級布団のため、こちらの利益も大きい。

 500人の常連客について、馬場寝具店は、「家族構成はもちろん、一人ひとりが好む枕の硬さや高さ、素材まで把握している」(馬場社長)。常連客は高級布団を使う富裕層世帯であることもあって、多少値段が安かろうとアフターサービスなどほぼなきに等しい量販店などへ“浮気”することはレアケースだという。