閑古鳥が鳴く店内、時代遅れの外観。だが、潰れそうで潰れない──。街でそんな店を見かけ、不思議に思った経験は誰しもあるはずだ。人口が減り、大資本による流通の寡占化が進む中、目新しい商売をしているわけではない彼らが、なぜ生き残っているのか。そこには、成熟極まる市場で事業を永続させるための新しい経営モデルが隠されていた。

 2016年度から10年計画での大規模再開発が決まり、一段とにぎわいを見せるJR川崎駅前。ここにひときわ異彩を放つ店がある。辻野帽子店だ。

<b>頭の形にぴったり合うよ うにフィッティングする 辻野洋二郎・取締役</b>(写真=北山 宏一)
頭の形にぴったり合うよ うにフィッティングする 辻野洋二郎・取締役(写真=北山 宏一)

 創業は1930年代で、川崎駅前大通り商店街で帽子一筋の専門店としてやってきた。駅前で人通りが多いにもかかわらず、入店する客はほとんどいない。取材当日の午後、店を訪れたのは1人だけだった。

 にぎやかな商店街だが、よく見ると混み合っているのはチェーン店が中心。「商店街の仲間の多くは店を畳んで、大企業に土地と建物を貸している。そりゃそうですよ。普通ならそっちの方がもうかるもん」。辻野洋二郎・取締役はこう笑う。

 だが、それは決して自虐的な笑いではない。外観だけ見ると昭和からタイムスリップしたようなこの店、相当の優良店なのだ。2015年の売上高は約3000万円。「成長著しいとは言わない。でも、潰れることはまずないはずです」(辻野取締役)。

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