人手確保が課題のいま、特に企業が不足を訴えるのがIT人材だ。IT系企業に加えてネット企業や事業会社が同じ人材を求め、獲得競争は熾烈を極める。給与以外にも魅力をアピールできるかどうかがカギを握る。
(日経ビジネス2018年4月2日号より転載)



「シリコンバレーより、南武線エリアのエンジニアが欲しい」。2017年8月にトヨタ自動車が南武線の駅にこんな求人広告を出した。南武線といえば、沿線に富士通や日立製作所、NEC、東芝といった大企業の研究施設が集まり、多くのIT(情報技術)人材が働いている。トヨタは自動運転やコネクテッドカーの開発のため、IT人材を積極採用しようとしている。
トヨタに限らず、IT人材の不足は多くの企業の共通課題だ。従来のIT業界に限らず、製造業も含めて産業界全体がIoT(モノのインターネット)やAI(人工知能)を事業に取り込もうと、技術者の獲得に力を入れて人材市場の需要は逼迫している。ある技術者がツイッターに転職を示唆する投稿をすると「外資系や国内のネット系企業からオファーが殺到した」という。多くの企業が常に人材を探している状況なのだ。
●IT人材の有効求人倍率

厚生労働省の職業別一般職業紹介状況(除くパート、17年12月)によると、IT人材(情報処理・通信技術者)の求人倍率は2.82倍だ。全職種平均を大きく上回り、インターネットバブルと呼ばれた05年ごろにも迫る勢いだ。
「むしろバブルの時よりも人材獲得競争は激しくなっているだろう」。そう指摘するのは転職情報サービスを運営するビズリーチの酒井哲也事業本部長だ。公共職業安定所(ハローワーク)を通さず、高度な技術を持った人材にターゲットを絞って募集をする企業が増えているため、求人倍率以上にIT人材の転職市場は活性化しているという。
競争激化で中途・新卒を問わず、企業が提示する給料は高くなっている。ヤフーは18年3月から高いIT系技術を持つ職種の採用コースを新設。応募時30歳以下の就業経験がない入社希望者に、初年度から年収650万円以上を支給するという。「経験や実績が豊富なIT人材の転職求人は、年収800万円を超える」(ビズリーチ酒井本部長)。ただ、高い給料を提示したからと言って簡単に技術者は集まらない。「むしろ給料額は気にしなかった」。そう話すのは16年に転職した30代の男性技術者。共働きで世帯収入には余裕があり、仕事内容と勤務地を優先したという。
「転職を考えるときに、その企業が持っているデータを触りたいという理由で入社する技術者もいる」。スマートフォン向けゲームを開発するグリーの藤本真樹CTO(最高技術責任者)はこう話す。データサイエンティストなどのIT人材は、特徴的なデータを分析できるといった点に仕事の面白さを感じて企業を選ぶケースが少なくないのだ。
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