ベトナムでは賃貸や転貸が自由化

 国外市場はどうなるだろう。「ベトナム、マレーシアおよびブルネイの政府調達に国際競争入札が新たに義務づけられるなど、ASEAN諸国をはじめとする諸外国のインフラ市場の急速な拡大、我が国企業の参入機会のさらなる拡大が予想される」。国交省が3月にまとめた「インフラシステム海外展開行動計画」はTPPの影響をこう記し、東南アジア地域を「絶対に失えない、負けられない市場」と位置づけた。

 中央政府機関のほかに、ベトナムでは34の公立病院、マレーシアでは保健省傘下の公立病院や教育省傘下の公立学校、投資開発庁なども調達の対象だ。他の地域では、チリやペルーで地方政府などの建設の基準額が引き下げられた。米国ではテネシー川流域開発公社のほかに複数の電力公社、地方公益事業公社、オーストラリアでは首都交通公社、カナダでは社会資本庁やPPPカナダといった機関が新たな開放の対象としてリストに載った。

●外国企業に門戸を開く政府調達の基準額

 ほかにも、海外でのニーズ拡大を予感させる文言が盛り込まれている。ベトナムでは不動産の賃貸や転貸が自由化される。これによって外資の百貨店などが、建物にテナントを入居させて収益化できるようになる。建築物の清掃も自由化の対象だ。マレーシアでは、建設の一部と事務に関連する機械や設備のリース・レンタルが自由化される。

 ただ、TPPの膨大な文書をひもといても、不動産・建設分野への直接的な影響をにおわせる記述はそれほど多くない。未来を知るのに必要なのは連想力や想像力だ。「TPPで流通が加速して外国企業が進出し、生活が豊かになると必ず質の高い建物がほしくなる。特にアジアの新興国では今後、日本式の建物の管理が重要になってくると感じる」。国交省で建設・不動産業の国際展開を担当する越智成基国際連携調整官は、このように語る。

 冒頭に紹介したいくつかの企業の取り組みは、不動産・建設分野の仕事のヒントになる。関税撤廃を機に、日本企業だけでなく他国の企業も、TPP加盟の新興国に生産拠点を移したらどうなるか。工場が増えて倉庫が足りなくなり、大量の物流が道路や鉄道などインフラの建設を急がせる。海外からの駐在員が増えれば、安全で快適な住宅やオフィス、商業施設が求められる。それは、投資適格といわれる不動産のストックが増えることでもある。

発効までの道のり

 とはいえ、発効までの道のりは平坦ではない。取り決めでは、全参加国が署名から2年以内に議会承認などの手続きを完了するか、6カ国以上が手続きを終えてGDPの合計が85%になれば発効できることになっている。合わせてGDPの8割近くを占める米国と日本の批准は必須だ。

 日本は、交渉過程の情報開示をめぐる審議の混乱と熊本地震で先の国会での承認を見送り、次期国会での成立をめざす。となれば「いつ」を左右するのは米国だ。元々、今夏、11月の大統領選後のレームダック期間、新大統領就任後の来年1月以降──の三つのシナリオがあったが、大統領選が混沌としているため、早期の承認は難しくなっている。

 もう一つの心配のタネは、国力の強い米国が協定の修正を求める再交渉だ。4月の衆議院TPP特別委員会で安倍首相は「ありえない話だ。仮に求められても応じる考えはまったくない」と否定した。しかし、大統領候補からTPPに反対する声が上がるなかで、「揺り戻しはある」という観測も強くなってきた。

この記事は、日経不動産マーケット情報2016年6月号に掲載された記事を再編集したものです。内容は掲載時点での情報です。