「不動産取引の制度変更なし」の根拠

 影響を国内と国外に分けてみると、協定の中身が明らかになる前は、国内業務への圧力を心配する声がたびたび聞かれた。不動産分野の不安は、2013年に公益社団法人全国宅地建物取引業協会連合会が政府に提出した意見書に表れている。そこでは、紛争解決手続きを用いた訴訟が起き、日本の法制度や取引慣行が不当と指摘されることを案じた。懸念事項として、契約書の英語化、礼金や更新料の否定、賃料や売買価格の全面公開、仲介手数料の自由化などを挙げている。

 国土交通省は2015年12月、「TPPの大筋合意」と題した資料をまとめ、「我が国の不動産取引の制度等がTPPによって変更されることはない」との見解を示した。これを受けて業界団体の一部の人たちは、「国交省が言っているから大丈夫だろう」と緊張を緩めている。

 TPP交渉では原則、すべてのサービス分野を自由化の対象としているが、例外的に適用外を設けるネガティブリスト方式を採用した。「変更なし」の主な根拠は、日本が不動産・建設に関係する法律を適用外としたからだ。宅地建物取引業法、不動産特定共同事業法、不動産鑑定評価法、建設業法、建築士法などを適用外とした。土地取引も例外扱いだが、自由化とは逆の規制強化の可能性ありになっている。相手国の条件次第で、日本における土地取引や賃貸借を制限できるという内容だ。

●TPPで想定される主な効果

 建設市場の開放につながる政府調達では、日本が約束した中身がこれまでのWTO(世界貿易機関)協定の内容と同じ。従ってTPPが発効しても、外国企業に開放する建設工事や設計業務は対象機関も基準額も変更がない。

 こうした理由から「国内市場は守れた」と言うのだが、前述の通り、自由化の適用外は業務を規定する法律であって慣行ではない。例えば、宅建業法が定める重要事項説明が廃止になることはないが、TPPで日本への関心が高まり、海外企業の参入によって独自の慣行が見直しを迫られることはあり得る。

国内の倉庫需要が拡大

 守りの対象として語られることの多い国内市場にも、成長の芽はある。一つは物流施設だ。農作物の輸入の伸びによって冷凍・冷蔵品が増え、電子商取引のサービスも進化して倉庫の需要が拡大するという筋書きだ。

 不動産サービスを提供するCBREは不動産専門誌「BZ空間」春号に、「TPPで物流はどう変わる?」というレポートを載せた。GDP変動率と倉庫着工面積に高い相関があることに着目して、安倍晋三内閣が掲げた「一億総活躍プラン」の目標値から倉庫着工面積を試算。結果は、2020年までの6年間で約6300万m2と出た。ただし、一億総活躍のGDP600兆円の目標は絵に描いた餅との見方が強い。TPPの効果に限れば、GDPは+14兆円という政府試算がある。このあたりを現実的な値とみて試算を当てはめると、約800万m2という需要が浮かび上がる。

 もう一つ、国内の建物需要につながりそうな数字が、政府の「総合的なTPP関連政策大綱」に盛り込まれている。「2018年度までに、少なくとも470件の外国企業誘致をめざす」という部分だ。研究開発、エアライン、旅行会社、観光客向けサービスなどの参入を期待している。目標達成を託されたJETRO(日本貿易振興機構)によると、日本で会社登記がなされ、事業所などの拠点設置をもって誘致とみなす。額面通りなら、オフィス需要も膨らむ。

 「関税が撤廃されると安い木材が入ってくる」。帝国データバンクのアンケートでは、地方の建設会社から市場開放を憂慮する声が寄せられたが、一方で「資材、機材の選択肢が増えるのでプラス」という意見もあった。