TPP発効後の国際的な事業環境の変化を先取りしようと、企業は動き出している。物流大手の山九はメキシコに現地法人を設立した。メキシコは米国向け自動車産業の集積地だ。日系メーカーの進出が相次いでおり、事業のさらなる拡大が見込めると判断した。
ヤマトホールディングスは東南アジア地域の物流ニーズが飛躍的にアップするとみて、マレーシアの宅配大手と業務提携を結んだ。ファミリーマートはコンビニエンスストアの外資規制の緩和を見据え、マレーシアへの進出を発表。繊維製品染色加工のソトーは関税撤廃をにらんでベトナムの企業と提携し、現地での生産を始めた。
こうした取り組みとは裏腹に、不動産・建設分野の反応は総じて鈍い。TPP大筋合意後に帝国データバンクが実施した「TPPに関する企業の意識調査」では、回答した全国1万547社の9.8%が「検討または検討予定」と答えたのに対し、建設業、不動産業はともに3.6%にとどまった。
世銀予測は日本の輸出23%増
不動産・建設分野への影響を探る前に、TPPについてざっとおさらいしておこう。TPPは自由貿易協定の一種で、一つの経済圏を構築するための取り組みだ。日本、米国、オーストラリア、ニュージーランド、ベトナム、マレーシアなど12カ国が参加し、2015年10月の閣僚会合で大筋合意した後、2016年2月に署名した。
協定は、投資、国境を越えるサービスの貿易、政府調達、中小企業、紛争解決など30章で構成される。関税撤廃に注目が集まりがちだが、サービスや投資のルールが明確になることで市場の透明性が増し、国際間のビジネスがしやすくなる効果が大きい。
参加国を合わせたGDP(国内総生産)は28兆ドル、人口は8億人。TPPによって世界のGDPの4割弱、人口の1割強を占める巨大な経済圏が誕生する。日本のおよそ6倍の市場規模だ。しかも連携が各国の成長を促す。世界銀行が発表した2014年を基準とした試算によれば、2030年時点で日本の輸出は23.2%、GDPは2.7%それぞれ押し上げられる。高齢化と人口減少でじり貧の日本にとって、TPPは唯一の光明ともいえる。
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