ロボットと思い出を語り合う日
2040年以降、高齢者となる層の多くは若い頃からSNS(交流サイト)を使っており、いずれそれは膨大な人生の記録となる。仕事から恋愛、友人関係、病気や事故、親しい人との死別…。ユカイ工学が研究する“孤独解消ロボ”が完成した暁には、そうした人生の重要な出来事をAI(人工知能)がネット上から読み取り、それをベースに対象者と思い出話を語り合う。
「あいつ、どうなったかな」「案外、若い頃のままなんじゃない」──。そんなロボットとの会話が、高齢者の孤独をどこまで癒やせるかは分からない。が、ATMや自動改札機を普及させたヒューマンルネッサンス研究所の中間取締役はこう話す。「新しい仕組みの浸透には時間はかかる。が、本当に必要とされるものならやがて定着する」。
日本国民が人口減対策に「移民よりロボット」を選択した場合、その先には、全く新しい社会が待ち受けているのかもしれない。
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2040年まで約四半世紀。ロボット技術が進化するための時間は十分あり、全国の自動化専門家が語る「機械化による人口減対策」は荒唐無稽とは言い切れない。
もちろん、今回の試算はあくまで「生産能力の減少」をロボットで補えるかのみを検証したもの。生産能力を維持したところで、人口減少で国内市場が縮小すれば、海外市場の開拓なしには衰退は避けられない(下のコラム参照)。
また、専門家が語ったのは四半世紀後の技術。そこに向かう過程では、技術が人口減をカバーできない事態も想定される。さらに2040年以降は、人口減が一段と加速する。長期にわたって国力を維持するなら、そこから先もロボット技術が人口減を上回る速度で進化し続けることが不可欠だ。本当に移民政策を見送るなら、国家として国際社会における道義的責任をどうするのかという議論も別に必要になる。
それでも「いざとなればロボットが何とかしてくれる」という事実を、国民一人ひとりが知る意義は大きい。少なくともその結果、移民政策について、より冷静な国民的議論が可能になることは確かだ。
「人口8000万人でもロボットで対応可能」
「労働力不足を補うには、生産性を上げればいい。生産性を4割上げれば、今の4割の人がいらなくなる。つまり、日本の人口が今より3~4割減って8000万人になっても、その分、ロボットが進化すれば、労働力不足は解消できる」。こう断言するのは、ハウステンボスの澤田秀雄社長だ。
その自信の裏付けとなっているのが、2015年夏にハウステンボスに開業した「変なホテル」での実績。澤田社長肝煎りの同ホテルは、受付やコンシェルジュ、客室への案内、ロッカーでの荷物預りなどを、専用に開発したロボットが担当する。

人間の従業員はロボットのトラブル時などの緊急対応や、ロボットでは難しい部屋の掃除だけを担う。現在は客室が72室ある「変なホテル」は、通常なら30~50人の従業員が必要とされる。だが、同ホテルはロボットの導入により現在、10人超で運営できているという。
澤田社長は今後、ロボット開発会社を自ら設立し、ハウステンボスなど自社グループでの業務効率化に活用していく方針。開発したロボットは積極的に外販もしていくという。
むしろ澤田社長が懸念するのは技術以外の部分だ。例えば、人口減による労働力不足を解消できたとしても、日本国内の市場縮小と高齢化が進む。
「人口が減ると国内消費も減少し経済規模は縮小する。高齢化が進むことで若者が減り、新しい発想でチャレンジする人が少なくなることも問題」(澤田社長)。ロボットが解決できるのはあくまで労働力不足。その上で、人口減少に伴う国内経済規模の縮小や、新しいことに挑戦する若者をどう増やすべきか。機械化による少子化対策を進める際は、それらも併せて考える必要がある。
(日経ビジネス2016年3月7日号より転載)
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