試算3▶▶▶ 第3次産業
“支援ロボット”投入で
人の能力を飛躍的に向上
日本が人口減対策に「移民よりロボット」を選んだ時、最大の難関となるのが第3次産業だ。2040年時点での第1次、第2次産業の労働力不足はそれぞれ20万人、144万人。それに対し第3次産業は、卸・小売業の99万人や医療や福祉の74万人を含め合計の不足人数が422万人に達する。
加えて第3次産業の機械化は、社会的なコンセンサスなしには進まない。ロボットが料理を運んでくるレストラン、自動運転の巡回バス、アンドロイドに世話をされる介護施設…。「ATMや自動改札機でさえ、最初は『失礼だ』との非難を浴びた。生活空間での新しい機械化を社会が受け入れるには、相当な時間が必要」。オムロングループのシンクタンク、ヒューマンルネッサンス研究所の中間真一取締役はこう指摘する。
こうしたことから、北海道大学の野口教授は「サービス分野ではまず、顧客からは見えない部分からロボットが普及していく」と予測する。「飲食店なら、食べ終わった食器を洗い収納する作業はロボット、調理や接客は人という形になる」と見るのは厨房機器大手のタニコーの谷口秀一社長だ。流通業では、倉庫ロボットによる在庫管理なども普及すると思われる。
人の能力を覚醒させるロボ
ただ、そうしたバックヤードの自動化だけでは422万人もの労働力不足をカバーできるかおぼつかない。そこで、期待されるのが“支援ロボット”だ。
第2次産業の“協働ロボ”のように人と同じ仕事をするわけではなく、作業者の業務を徹底的にサポートするというもの。その結果として人の作業能力が飛躍的に向上すれば、必要な人手は減るし、業務の特性上、これまでその仕事に就けなかった人材を活用することも可能になる。
分かりやすいのがパワードスーツ。「高齢者や女性が、20代の男性と同じ“筋力”を持てば、サービス現場の人材不足は確実に解消する」。装着型のパワーアシストスーツを開発する2003年設立のロボットベンチャー、アクティブリンク(奈良市)の藤本弘道社長はこう強調する。
腰の部分に装着し重いモノの上げ下げをサポートする軽作業用のパワーアシストスーツを商用化している同社。現在、2020年代の実用化をめどに、より強力なパワードスーツを開発中で、装着すれば片手で50~70kgの荷物を上げ下げできるようになるという。
医療、福祉業における被介護者の移動補助も早晩、ロボットの活躍の場になりそうだ。FA機器・ロボット・医療用機器の制御システムを手掛けるマッスル(大阪市)は、被介護者をベッドから車椅子に乗せかえる介護ロボット「SASUKE」を完成済み。介護士は介護者の背中にシートを敷き入れるだけでいい。今後は「寝たきり状態でも排泄処理ができるロボットの開発にも力を入れる」(玉井博文社長)という。
“支援ロボ”が支援できるのは力技だけではない。例えば営業。ロボットを単独で取引先に行かせるのは無理でも、担当者に付き添わせ商談を補助させることは可能だ。
「重要事項の説明や商材のプレゼンテーションを代行するのはもちろん、前回の商談記録から最適なセールストークを担当者に指南することなども可能になる」。2014年の設立で、ソフトバンクグループの家庭向け人型ロボット、「Pepper」向けのアプリを開発したロボットスタート(東京都渋谷区)の中橋義博社長はこう指摘する。

「2040年の保育園ではロボットが副担任になる」。こう話すのは2013年設立のベンチャー、ユニファ(名古屋市)の土岐泰之社長。「保育士は園児と接するほかに、様々な業務を抱えている。登園時の検温や睡眠時間や食事内容の記録などはロボットが手掛ける時代が来る」(土岐社長)。2015年には、保育園向けの見守りロボット「MEEBO(ミーボ)」を発表した。
こうした第3次産業でのロボット活用は、「孤独社会」の解消にもプラスの影響を及ぼす可能性がある。介護施設や公共施設などに配置されたロボットたちは、生身の若者よりずっと“気さく”に高齢者に話しかけるからだ。
日常的な挨拶だけではない。会話ロボBOCCO(ボッコ)を開発するユカイ工学(東京都新宿区)の青木俊介社長は、ロボットによる壮大な孤独社会の解消プランを練っている。
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