ビッグデータの速報性は革新的

渡辺 先ほど、熊谷さんのお話にあった通り、マクロとミクロの両面から包括的に消費を捉えるような指標が求められています。

 しかし、景況判断に求められる速報性に対して、正確性や包括性というのはトレードオフの関係にあります。そこをクリアする可能性を秘めているのが、ビッグデータだと思います。ビッグデータの魅力は、即時性に加え、非常に細かい粒度で分析が可能だという点が挙げられます。

 私はこれまで、ビッグデータを使った物価指数の作成に取り組んできました。通常、私たちが買い物をすると、レジを介して「いつ」「どこで」「何が」「いくらで」買われたかという販売データ、すなわちPOSデータが蓄積されます。本来は販売店側が売り上げを集計・分析するために使っていたものですが、ここから価格決定や市場のメカニズムを読み解く統計をつくれないか、というのが最初の着想です。

 POSデータは物価指数をつくるうえで非常に強力なデータソースです。日々自動的に生み出されるものですから、あとはこれを集計する枠組みさえつくればいい。

 現在、私どもがPOSデータから作成している物価指数では、日次で細かく、さらに、例えば性別や年齢別で物価の動向を追うことまでできます。加えて、今日の物価指数は明後日には分かる、という速報性も兼ね備えています。

熊谷 物価というと、総務省の消費者物価指数が我々エコノミストにとっては重要な指標です。消費者物価指数は、調査員が小売店へ足を運んで調べた価格を基に積み上げたものです。それゆえに正確で信頼に足るものですが、私たちが知り得るのは、月次の物価水準です。それが、日次で、しかもすぐに得られるというのは革新的です。

渡辺 ビッグデータには、全体の合計や平均からは見えてこない国民生活の多様性や社会経済のメカニズムを映し出す可能性があります。

 例えば、物価を日次で集計すると、特売と物価の関係が可視化されます。特売はあくまで一時的な価格の下落ですが、特売の頻度が多くなれば、これは長期的な意味でも、物価水準の下落と捉えることができるでしょう。価格競争が激しい今、必ずしも1カ月継続して同じ価格が維持されるわけではなく、その日その日によって価格が変わり、当然、その売り上げも変わります。従って、物価や消費も月次ではなく日次で見るからこそ見えてくるものがある。そういった分析は、ビッグデータが非常に得意とするところです。こうしたメリットを政府統計にも生かせるといいと考えています。

高市 ビッグデータの活用も含めた、新たな視点から消費統計を整備することが急務だと考えています。また、調査で得られた情報を統計上の分類に仕分ける作業など、AI(人工知能)が統計実務を大幅に省力化する可能性を秘めているとも聞きます。今後の統計作成の現場は大きく変わり得ると思います。

国友 その可能性は大いにあると思います。政府統計ではいまだにビッグデータを十分に活用しておらず、伸びしろは大きいと思います。

 一方で慎重にすべき部分もあります。私は、政府統計の政府統計たるゆえんは、作成方法の正統性にあると考えています。ビッグデータだけでは正直、その担保が難しい。

 家計調査など、政府の統計調査の実施環境は年々厳しさを増していますが、統計理論に基づいて調査設計を行うという基本スタンスは変えるべきではありません。そのうえで、調査が完璧には実施できないという現実もありますから、そこを補う補完的なデータ活用はあり得るでしょう。

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