問題は12~2月の冬季。この時期は訪問者がめっきり減り平日には島に渡る船も出ない。エンターテインメント施設や飲食店舗など何らかの観光施設を新設すれば状況は変わるかもしれないが、予算は限られている。

 それだけに「島そのものを貸してしまう」というスペースマーケットの提案は傾聴に値するものだった。

 「ワンオブゼム」で島に訪れるのと、「全面貸し切り」では何をするにしても自由度が全く違う。ここ数年はバラエティー番組でも「無人島開拓」や「無人島サバイバル」が人気のテーマ。屋外での企業研修を実施するにしても、周りを海に囲まれた環境なら臨場感は一層増すし、音楽系のイベントなどは騒音対策への負担も大きく減る。模擬弾で擬似戦闘するサバイバルゲームなどには、格好のシチュエーションだ。

横須賀市への経済効果も大

 地域への経済効果も大きい。レンタル料に加え、人数分の入島料、特別便として運航する渡し船や島に渡る前の横須賀市内での食品などの購入、イベント終了後の打ち上げ需要などを考えれば何もしないよりずっといい。

 初年度は告知開始が11月だったこともあって、2015年1月27日現在の引き合いは10件程度。問い合わせの内容は「全社員研修&周年イベント」「ダイビンググループのイベント」「アパレル会社の展示会」「サバゲー」など。吉本興業からは「芸人のファンイベントができないものか」と相談を受けている。

 実績こそないものの、この「無人島レンタル」には、横須賀市以外の、無人島を所有する多くの自治体が注目している。「非日常空間」「気兼ねなく騒げる」といった条件は、猿島特有のものではないからだ。

 国土交通省によれば、日本には6430の無人島がある。スペースマーケットの重松大輔社長は「そうした島や自治体が持つ施設を有効活用できれば、人口減と税収減に悩む自治体にとって、財政再建の一助になる」と語る。

 創業以来、「式がない時の結婚式場」「オフィス内の空き会議室」「営業時間外のカフェ」などのユニークなレンタル仲介を手掛け、現在4500件の物件を登録する同社。収入源はスペースの所有者からの仲介手数料で、レンタル料の20~35%を得る。2016年12月期の取扱高は10億円を見込み、3年後には100億円まで伸ばすのが目標だ。そんな同社がここへきて、仲介する物件の幅を一段と広げつつある。

RENTAL
古民家
貸します

鎌倉市、由比ガ浜に近い古民家。1月11日にここを借りて結婚披露パーティーが開かれた(写真=北山 宏一)
鎌倉市、由比ガ浜に近い古民家。1月11日にここを借りて結婚披露パーティーが開かれた(写真=北山 宏一)

 例えば古民家。神奈川県鎌倉市内の空き家を、鎌倉出身のダンサーが改装し創作活動の場として活用しているが、コンサート期間などは使わないことも多い。今、この古民家はスペースマーケットを通じ1時間6000円でレンタルされている。

 週末にはパーティーの利用などがあり月間10万円ほどの収入になる。貸し主のダンサーは「多くの人が集うことで、表現を共有、創造して発信する場に変わってきている。とても心が弾む」と語る。

 空き家の増加もまた、衰退する地方における遊休資産。総務省の調査によると2013年、日本の空き家数は全国の住宅の13.5%に当たる820万戸ある。無人島と異なり放置すれば倒壊する恐れもある空き家。「古民家レンタル」もまた、地方衰退を食い止める一助になる可能性は高い。

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