服装規定に盛り込まれたにおいの対応項目は多岐にわたる。勤務中のたばこや香水の禁止、昼食後の歯磨き、口中清涼錠菓や消臭剤の使用だけではない。勤務前や勤務中のニンニクやニラなどにおいが強い料理を食べない、といった細かな対策までも指示する。店舗の裏にはこうした一連の体臭・口臭対策を羅列した用紙を張り出す徹底ぶりだ。対策を怠った従業員は、半年に1度の人事評価でマイナス査定につながることもあるという。

 導入したオンデーズの明石拡士執行役員は「確かに厳しいかもしれないし、実際にたばこのにおいが原因で人事評価が下がった従業員はいる」と打ち明ける。ただ「メガネ販売は顧客との距離が他のアパレルよりも近いだけに避けられない」と話す。

「本人には指摘しにくい」

 企業で徐々に進むスメハラ対策だが、製造業などは接客業ほど踏み込めていない。背景には、本人ににおいのくささを指摘しにくいことがある。先に紹介したマンダムの調査でも回答者の9割以上が、「指摘しにくい」としている。汐留スタイルブックににおい対策を盛り込んだパナソニックの池田主幹も「上司であっても、部下にさすがに面と向かって指摘はできないでしょう」と話す。

 指摘すること自体がハラスメントにもなりかねない。実際、職場のハラスメント研究所の金子代表理事は「上司からにおいの強さを指摘されたことで、『傷ついた』『職場でからかわれるようになった』といった相談も出てきている」と話す。

 企業はどこまで対応すべきなのか。多田弁護士は「服装規定なら問題はないが、においが原因で懲戒処分になるなどの規定を盛り込めば過剰反応になってしまう」と指摘する。一方で、「企業は従業員に対する職場環境の配慮義務がある」(多田弁護士)。

 現代社会に浮上した新しいハラスメント。企業には慎重な対応が求められそうだ。

(佐伯 真也)

INTERVIEW
大同大学情報学部かおりデザイン専攻の光田恵教授に聞く
不快なにおいは関係悪化のシグナル
<span class="fontBold">「嗅覚に関するメカニズムは科学的に解明されていないことが多い」と語る光田教授</span>(写真=森田 直希)
「嗅覚に関するメカニズムは科学的に解明されていないことが多い」と語る光田教授(写真=森田 直希)

 香りやにおいなど嗅覚に関するメカニズムは、視覚や聴覚など他の感覚に比べて科学的にまだまだ解明されていません。ただ、特定のにおいへの感じ方で個人差が出るのは嗅覚受容体など嗅覚機能の差に加えて経験や学びによって変化するためとされています。

 典型的なのがまつたけのにおい。幼少時代は苦手でも、大人になると香りを楽しめる方も多いのではないでしょうか。これは「まつたけは高級品だからいい香りなんだ」という学習が反映されている結果といわれています。

 「スメハラ(スメルハラスメント)」は「欧米には存在せず、日本特有の問題」といわれています。これには文化的な背景が影響していると考えられています。日本ではお香など香りを楽しむ文化もありますが、多くの人が無香料を好みます。体臭があり香水などでマスキングする欧米とは対照的と言えますね。

 もっとも日本では無臭文化が過度に進んだ面もあります。今や観光地のトイレですら不快なにおいを感じることが少なくなりました。生活の中でのにおいそのものが失われていったことで、少しのにおいの変化を敏感に捉えてしまうのではないでしょうか。

 スメハラでは香水や芳香剤、柔軟剤など、本来は快適に感じるための商品も対象になっています。こうした商品は甘い「バニラ」など、従来の日本人の生活にはなかったにおいが多い。これまで日本人が体感したことのないにおいだからこそ、違和感を持つのかもしれません。

 香りが多様化する中で、その捉え方もまた多様になっています。現実問題として、スメハラが問題になっている現状を考えれば、一人ひとりがエチケットとして他人に配慮するといった、マナーの観点からの教育も重要になりそうです。

 職場のスメハラについては人間関係がうまくいっていないシグナルと捉える見方もあります。関係修復が解決の第一歩となるかもしれません。(談)

もはや何でもハラスメントに
●職場で陥りかねない特殊なハラスメントの例
ハラスメント名概要
ブラッドタイプハラスメント血液型による性格の決めつけや偏見
ソーシャルハラスメントSNSに職場の上下関係が持ち込まれるストレス
テクノロジーハラスメントITリテラシーの低い人への嫌がらせ
エイジハラスメント中高年社員など年齢に対する嫌がらせ
テクスチュアルハラスメント男性・女性的など文章表現による差別
セカンドハラスメントセクハラ被害者が会社側から2次被害を受けること
パタニティハラスメントイクメンなど男性の育児参加に対する上司の妨害
カラオケハラスメント歌いたくない人へのカラオケの強要
エアコンハラスメント主に夏場に極端に設定温度を下げる行為
ジェンダーハラスメント男らしさや女らしさを強要
ポストスメハラ予備軍も続々登場

 セクハラやパワハラほどではないものの、社会での認知度が高まってきた「スメハラ(スメルハラスメント)」。2017年にマンダムが実施した調査では46%のビジネスパーソンがスメハラという言葉を認識していた。

 だが日本には他にも耳慣れないハラスメントが存在する。血液型占いをベースに性格を決めつけてしまう「ブラッドタイプハラスメント」、SNS上に職場の上下関係を持ち込む「ソーシャルハラスメント」、IT(情報技術)リテラシーが低い社員に対して英語の専門用語を使って詰め寄る「テクノロジーハラスメント」など数え上げればきりがないほど。職場のハラスメント研究所の金子雅臣代表理事によると「セクハラやパワハラ、モラハラ(モラルハラスメント)を含めるとその数は30を超える」という。

 乱立するハラスメントの多くは「パワハラの範疇に入るため細分化されているにすぎない」(弁護士法人Proceedで代表を務める多田猛弁護士)との指摘もある。数々のハラスメントは「社会背景が変わることで問題視される」(職場のハラスメント研究所の金子代表理事)傾向にある。スメハラに続く、「ハラスメント予備軍」にも注意が必要だ。