インフラの脆弱さや汚職の横行については、政府が、外資系企業が進出しやすい環境の整備を急ピッチで進めている。その中核を担うのがフィリピン経済区庁(PEZA)だ。1995年に創設され、フィリピンの経済振興や雇用創出に取り組んできた。

フィリピン経済区庁のリリア・デ・リマ長官は汚職撲滅を掲げ、20年超にわたり海外企業の誘致を続ける(写真=山田 哲也)
フィリピン経済区庁のリリア・デ・リマ長官は汚職撲滅を掲げ、20年超にわたり海外企業の誘致を続ける(写真=山田 哲也)

 PEZAの長官は、創設以来変わらず一人の女性が務めている。リリア・デ・リマ氏だ。外資企業の製造業を誘致して20年、4人の大統領に仕えたが、彼女は変わらず環境整備を続けてきた。フィリピンに進出する企業の間では「大統領が代わるよりもデ・リマ長官が代わる方がリスク」と言われる存在だ。

 新興国進出にはつきものの賄賂や袖の下の撲滅を図るとともに、経済特区も積極的に創出。国内に334カ所の特区を既に設置し、外資系企業は法人税が最長で8年間免除される特別措置もある。基本的には輸出向け産業に対する措置だが、免除認定を受けた企業でも総売上高の30%まではフィリピン国内での販売が認められる。

 投資環境が整う一方で、「アジアの病人」時代の最大の後遺症、部品メーカー不足についても、意外な解決策が見つかりつつある。

 「確かにフィリピンには、大型製造業を迎え入れるだけの部品メーカーが不足している。だが、発想を転換すればそれは新たなビジネスチャンス」。埼玉県三郷市に本社を置く金属加工会社、パーツ精工(大田憲治社長)の現地子会社、岩佐高士社長はこう話す。

「不毛の地」だからこそ商機

 同社は、日本では社員約200人の中小企業。フィリピンに進出したのは2011年、日本の製造業が円高に苦しむ時期だった。

 中国にも拠点があったパーツ精工が、現地の人件費の高騰で次なる進出場所に選んだのがフィリピン。当初の目的は「円高を追い風に、フィリピンで作って日本に輸出すること」だった。ところが、安倍政権の誕生後は一気に円安へ転換してしまい、フィリピン進出は誤算になりかけた。

 が、ここで岩佐社長は、現地の日系企業の多くが金属部品の供給元不足に頭を抱えている事実を知る。さっそく日本本社の大田社長に連絡し、NC旋盤やマシニングセンターといった現地の設備を増強。日本では、後工程である熱処理や研磨など表面処理は協力工場に依頼することが多かったが、現地では一貫して加工できる体制を自社で整えた。

 すると、日本では付き合いのない様々な大企業からも依頼が舞い込むようになり、今では主力である産業機械関係に限らず、精密機器や医療分野などへも事業領域が広がった。「グループ全体で見ても、今は利益のほとんどをフィリピンでの機械投資に注入している。黎明期なだけにチャンスは大きい」と大田社長は意欲を燃やす。

 製造業の未発達からくるサプライヤーの不在は、外資系製造業を誘致する上で、フィリピンが抱える最大の弱点の一つだ。フィリピン自動車工業会の調査によると、フィリピンに進出する日系企業の現地調達率は23.6%。8割近くを輸入に頼らなければならない状況だという。

 だが今後は、日本国内はもちろん中国やタイ、インドネシアなどの部品メーカーの間でも、ビジネスチャンスを求め、パーツ精工のような動きが出てくる可能性がある。そうなれば、ますます大企業が進出し、その結果、さらに部品メーカーがフィリピンに集まる、という好循環が生まれるかもしれない。

 経済発展に伴う治安改善、PEZAによる投資環境の整備、サプライヤー不足改善への兆し…。確実に変わり始めたフィリピンだが、全ての進出リスクが一掃されたわけではない。

 まず、いかんともしがたいのは地理的不利だ。島国であるフィリピンは、アジア経済の成長をけん引する中国大陸と陸続きではない。中国の習近平指導部が掲げる「一帯一路(新シルクロード構想)」が実現すれば、アジアから欧州まで物流網が整備され、モノの行き来が一段と活性化すると見られる。が、フィリピンは物理的にその恩恵を受けられない。