離職率が低く真面目とされるフィリピン人ワーカー
離職率が低く真面目とされるフィリピン人ワーカー

 圧倒的な買い手市場で離職率が低いのも大きな進出メリットだ。200人のワーカーを抱えるある中堅工場は「進出から3年で自己都合で辞めたのは1人だけ」と語る。

 海外で日系企業が苦労する労働争議のリスクも低い。統計によるとフィリピンで起こったストやロックアウトは2013年に1件、2014年に2件。同時期2000件を超える中国や、500件近いインドネシア、300件超のベトナムと比べれば雲泥の差と言っていい。

 国民の英語力の高さも、一部の日本企業が、生産基地としてのフィリピンに注目し始めた理由の一つだ。

 フィリピンではタガログ語に加え、幼少期から英語教育が施されており、多くの国民は英語を話すことができる。識字率は94.6%。英語でマネジメントができる点は、タイやベトナム、インドネシアにはないメリットだ。現地で日本語や英語を話せる人材を探す必要はなく、ワーカーともコミュニケーションを取りやすい。

メリット重視の企業が増える
●フィリピン進出のメリットとデメリット比較
メリット重視の企業が増える</br>●フィリピン進出のメリットとデメリット比較

 「英語が堪能な優秀な人材を確保し育て、将来のインド進出につなげたい」(現地の日系企業経営者)という長期的展望を掲げる企業も少なくない。親日で比較的日本人の感性に近いフィリピン人を育成して市場攻略部隊にすれば、インドをはじめとした英語圏でのビジネス拡大に弾みがつくとの考えだ。

 もっとも、単に「人件費が安く、マネジメントが容易で、英語が話せる人材がいる」というだけでは、つい最近まで「病人」とまで言われていた国に目を向ける理由としては弱い。

「海燕ジョー」の時代とは違う

 先進企業がフィリピンへの進出ラッシュを始めたのは、政情不安から内戦、脆弱なインフラ、汚職、貧富の差、治安、サプライヤー不在などの一連の「病巣」が今後急速に改善する可能性がある、と判断したからでもある。

 まず治安。「経済発展により現地の治安は飛躍的に改善しており、日本人が考えているほど『やばい国』ではない」。今回取材した現地関係者の多くはこう口をそろえる。「過去の事件やメディアの報道などにより日本人のフィリピン観は過剰なバイアスが掛かっている」というのが彼らの共通認識だ。

 1986年の三井物産マニラ支店長誘拐事件以来、少なからぬ日本人は「フィリピン=危険」との先入観を抱いている。重大事件の犯人の逃亡先として報道されることも多く、記憶に新しいところでは2012年の六本木クラブ襲撃事件の首謀者の潜伏先と伝えられた。

 また、2015年に逝去した佐木隆三氏の代表作『海燕ジョーの奇跡』など様々なフィクションでも、「闇社会でトラブルに巻き込まれた者の代表的な逃亡先」として描かれてもいる。

 だが、ある現地駐在員は「闇社会の巣窟のようなエリアも存在するが現実は一部。普通に暮らしていく上では問題はない」と話す。確かに、マニラ中心部のチャイナタウンや、国際的テロ組織の拠点がある南部のミンダナオ島など危険な場所はあるが、日本人居住区や日系企業の工場とは隔絶している。「『行ってはいけない危険な場所』ならベトナムやミャンマー、最近では日本にすらあるわけで、治安レベルでフィリピンを進出先から除外するのは全くのナンセンスだと思う」(同)。

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