課題は現地での人材育成
サトーカメラの中国展開の今後のカギとなるのは、人材育成だ。蘇州店でも最初は勤務する中国人社員の大半が、中国ではあり得ない手厚い接客をすることに拒否反応を示していたという。
その雰囲気を変えたのが、日本で20年間以上生活していた上海出身の店舗指導者、陳彭齢氏だ。陳氏は日本にいた頃、「中国で自分の店を持ちたい中国人を探している」と言う佐藤専務にスカウトされ3年間サトーカメラで勤務していた。最初は非協力的だった現地社員も、物腰が柔らかい丁寧な接客でカメラを次々に売る陳氏の姿を見て考え方を変えていったという。
いずれ陳氏に続く人材が1人また1人と増えるのに合わせ、少しずつ店舗網を拡大していく。これが、現地での当面の戦略となりそうだ。
国内どころか中国でも独自の接客で旋風を起こし始めた孤高のカメラ店チェーン。そのユニークな生き残り術には、厳しい環境に身を置くすべての小売業が存続を図るために必要な知恵がちりばめられている。
佐藤千秋社長、勝人専務に聞く
2016年度に粗利率50%、
中国でコンサル事業も
佐藤千秋社長(以下、社長) 2003年に専務が「フィルム」をやめると言ったときは正直反対しました。いくらなんでも極端すぎるだろうって。しかし、中・長期的に今後のサトーカメラをどう成長させていくか考えたときに、売り上げの9割を占めながらも毎年徐々に減少しているフィルムカメラからすっぱりと撤退するのも一つの生き残り策だと思いました。
佐藤勝人専務(以下、専務) サトーカメラの会社方針は、「想い出をキレイに一生残すために」です。写真文化を啓蒙するためにビジネスをしているんですね。であれば、カメラがデジタルカメラであってもフィルムカメラであっても関係ないんです。2003年が我々にとって大きなターニングポイントになりましたね。
売り上げはガクンと落ちましたが、粗利率は約20%からスタートして13年連続で前年比増です。2014年度の粗利率は43%でした。2016年度には50%にしたいと考えています。
社長 実は2011年に一度だけウェブメディアでサトーカメラが取り上げられたことがありました。そのときまで、我々の販売手法が一風変わっているとは知りませんでした。

専務 栃木県外では初めてとなる、中国市場への挑戦も我々にとっては大きなチャレンジでした。これまであまり中国市場を意識したことはなかったのですが、数年前に参加したあるイベントで、知人の中国人から「中国では人と人との人脈をとても大切にする」と教えてもらいました。中国は国土が広大なだけに地域ごとの地元意識が強く、日本人以上に人脈を大事にする傾向があると言います。
しかし、実際に中国を視察すると、この考え方をビジネスに取り入れている小売業は全くありませんでした。地元に根差し、人脈作りにつながる接客をするサトーカメラ流のやり方なら、中国の人にも受け入れられる新しい小売業になれると考えました。
社長 今後は直営店なのかFC店で店舗を広げていくのかは、まだ決まっっていません。現地の他の販売代理店向けのコンサルティングの仕事も今後は増えそうです。
専務 国内で栃木県以外の進出を全く考えていないわけではありません。それこそ、東京に宇都宮と全く同じスタイルの店舗を構えてもいいと思っています。周囲から「無駄」や「非効率」と言われているサトーカメラ流の経営スタイルは変えません。場所がどこであれ、その周辺地域の一番店を目指します。
(日経ビジネス2015年12月14日号より転載)
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