同社の非効率戦略は、商品構成にも及んでいる。新製品などのメジャー商品より、スポットの当たらないマイナー商品に目を向けていることだ。

 世の中に流通しているカメラのうち、量販店が扱っているのは約1割と言われる。機能が大きく劣るわけでもないのに、残り9割は周知されることなく消えていく。サトーカメラはここに着目した。実際、サトーカメラの店舗に行くと、一部人気商品も置いてあるものの、聞き慣れないブランドや、大手メーカーでもマイナーな製品も多い。

 こうした製品は、メーカーによる大掛かりな宣伝がない分、普通は売りにくい。在庫が滞留する可能性も高く、資本効率を高める上では得策とは言えない。それでも、マイナー中心の商品構成を敷くのはやはり、大手との競争を回避し、顧客満足を高めるためだ。

 「人気商品の販売で真っ向勝負しても勝てないから、マイナー製品で戦うしかない。カメラ好きの中には、誰もが持っている商品より希少価値の高い製品を好む方も少なくない」。佐藤専務はこう説明する。

 マイナー商品は基本的に、販売員が直接メーカーに足を運び仕入れているが、同社の販売員は長時間接客やアフターフォローを通じて、常連顧客の趣味をよく知っている。このため、全く見当違いの商品を仕入れ長年ほこりを被るような事態にはならないのだ。

 大手と競わず自社で顧客を育てるサトーカメラは、商品も自分で発掘したものを自らヒット商品に育てている。

 無駄と非効率を肯定し、大手家電量販店にはない戦略を貫く同社。その最大の弱点は、「何らかのきっかけで写真に関心を持ち来店するカメラ初心者」が途絶えると、その仕組み自体が回らなくなることだ。佐藤専務が言う「ノンカスタマー」がいなくなれば、超長時間接客も11年保証も色あせかねない。

 そこで、そうならないよう同社が重視しているのが、紙のチラシだ。

 クリック一つで一瞬にして何万人、何十万人に広告を効率的に届けられるウェブマーケティングが完全に主流の時代だが、「ウチにとっては、チラシこそ最高のマスメディア」と断言する。その意味は、実際に同社のチラシを見るとすぐ分かる。

 サトーカメラのチラシは、「カメラ単体の紹介」より、「とにかくカメラに少しでも興味を持って来店してもらうこと」が狙いだ。他社の新聞折り込みチラシに比べて商品の掲載数は少ないが、その分、商品説明は充実していて“モノ雑誌”のようなレイアウトになっている。

 例えば最新号のチラシには、「懐かしい幼少時代へタ~イムスリ~ップ!」とのタイトルで、佐藤専務自身の子供の頃の写真を掲載し、こう続けている。「今では記憶にもない昔の思い出が映像で残っているってうれしいですね! DVDダビングで残しましょう!!」。DVDダビングが何のことか分からなくても、孫の写真を手に思わず来店する高齢者が目に浮かぶ。

チラシには印刷に興味を持ってもらうウンチクが
チラシには印刷に興味を持ってもらうウンチクが
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 さらに、各店舗の店長の顔写真と出身校がチラシにも載っているのも特徴だ。このスタッフの情報開示も重要な集客戦術。旧友や自分の出身校の店長をチラシで見つけた人が、カメラに関心がないのに来店してくることもある。

 そうやってチラシを見て来店してくれた顧客を、これ以上ない情熱で接客しカメラファンになってもらう。そんな地道な作業の積み重ねで、サトーカメラは生き残ってきた。

 同社が現在の営業スタイルに本格的に転換したのは2003年。フィルムカメラ市場の衰退がきっかけだった。

 大手家電量販店の隆盛が始まった1980年代後半以降も、同社が存続できたのは、カメラの売り上げが減っても、フィルムの販売と現像代の収入はさほど変わらなかったからだ。多くの人はカメラ自体は量販店で購入しても、フィルムの購入や現像は近所のカメラ店で済ませることが多い。が、2000年に入りデジタルカメラが普及するとそんな貴重な収入が一気に減ってしまう。

 どう事業を継続するのか。たどり着いたのが、他にない商売のスタイルを確立することだった。

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