日本のセキュリティー企業には3つの重いかせがある
日本のセキュリティー企業には3つの重いかせがある

 「認証」「プライバシー」「法令」の3つが壁となって、日本の安全を守るセキュリティー機器や技術が海外勢に抑え込まれている現実。テロ情勢に詳しい板橋功・公共政策調査会研究センター長は「優秀な海外技術は積極的に使うべきだが、全てを海外技術で賄うわけにはいかない」と警鐘を鳴らす。

 実際、国同士の情報戦は年々激しくなっている。13年に米中央情報局(CIA)の職員だったエドワード・スノーデン氏が、米国家安全保障局(NSA)の情報収集活動を暴露した事件はその一例だ。「海外技術を使う場面では、日本のセキュリティーに関わる情報が流出するかもしれないという認識を持つべきだ」と板橋氏は指摘する。

 自国の安全保障に直結するセキュリティー機器で国内勢が貢献するすべはないのか。

 したたかに生き抜く日本企業はある。

 今年6月に英国ウェールズで開かれたサッカーの欧州チャンピオンズリーグ決勝戦。世界で最もレベルの高い大会の一つといわれるだけにフーリガン(狂信的なファン)も集結する。どうスタジアム内の秩序を保つか。英警察が頼ったのがNECの顔認証システムだった。あらかじめ登録した画像データを基に、スタジアム内に入場しようとするフーリガンを高精度に特定する作業を任された。

 NECは1980年代から顔認証技術の研究を進めてきた。米国の国立標準技術研究所が主催する評価テストでは2009年以降、毎回、トップの成績を得ている。米警察でも採用され、そのシェアは3割に達するという。

 AI技術も生かし認識精度を向上させるが、AIが学習するベースに置くのは「長年積み上げてきた熟練技術者の経験をAIに落とし込むこと」(顔認証技術開発センターの川瀬伸明氏)。街頭カメラなどの映像を使わずに、精度を高めようという試みだ。

 こうした基礎理論は日本の研究所が開発を担うが、用途開発は英国のチームが担当する。海外の技術標準の動向をつかみながら、「認証」「プライバシー」「法令」の壁を乗り越え、グローバルで求められる潜在ニーズを探り当てる戦略だ。つまり、NECは最初から日本市場でなく、海外市場をにらみ、開発する体制を構築しているのだ。海外で実績を積めば、先進技術の導入に慎重な日本の警察機関にも食い込める。

 もっとも、NECがこうした戦略を取れるのも、早くからグローバルな開発体制を築けてきたから。そこまで経営資源を注ぎ込める日本企業はなかなかない。テロの脅威にどう対応するか。日本もそろそろ官民を挙げて、セキュリティー産業を育成する時がきている。

INTERVIEW
東京オリンピック・パラリンピック警備局長に聞く
バルーンカメラや顔認証に期待
東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会の警備局長を務める今井勝典氏
東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会の警備局長を務める今井勝典氏

 オリンピック・パラリンピックは、通常は郊外の施設に会場が集中します。ただ、2020年の東京大会は、40もの会場に分散され、交通網などに配慮したテロ対策が求められます。サイバーテロへの対応も必要です。12年のロンドン大会でも電力インフラへのサイバー攻撃がありました。私たちもサイバーテロに迅速に対応するCSIRT(コンピューターセキュリティーインシデント対応チーム)を発足させました。

 調達する警備機器はローテクが基本です。しかし、有用性が確認されていて、実績があるものであれば、新技術も積極的に取り入れていきます。

 例えば、警備用カメラはフルハイビジョンから4Kに変わりつつあり、より精細な映像を撮影できるようになっています。リオデジャネイロ大会で使われたカメラを搭載したバルーンは、監視範囲が広く有用です。会場への出入りが多いスタッフの管理には、顔認証も活用できるのではないでしょうか。

 厳しいチェックが原因で競技を見逃しては元も子もない。観客の入場チェックをどう効率よく進められるかも大事になります。決してゼロにできないリスクをどこまで許容することができるか。慎重に議論していきたいですね。

 第1次予算ではカメラ1万台、X線検査器700台を計上しました。警備機器は大量に調達できることが原則ですが、重要設備に少数の秘密兵器を入れることも考えています。(談)