欧米ではこうした航空保安機器に関する技術基準を定め、各企業の製品を審査する認証機関がある。契機は01年の米同時多発テロ事件。米国は運輸保安局(TSA)、欧州連合(EU)は欧州民間航空会議(ECAC)という認証機関に、域内の航空保安機器の技術基準を定める役割を担わせた。

 開発段階から各企業と連携して仕様策定に関わることもある。自国・地域で導入する製品についての審査業務をこなす一方、域外の国にも同様の技術基準の製品の採用を求めている。「事実上、域内企業の営業活動を後押ししている」(業界関係者)

 そうした中で、日本オリジナルの製品を作ったところで、世界で認められようがない。日本の空港施設を管轄する国交省も、TSAとECACの認証リストを基に各空港に要請する機器の要件を決める。国交省の先進機器の購入補助制度も、TSAやECACの認証を得られていない日本製品は対象外となる可能性が高い。認証機器を公表しているECACのリストを見ても、日本企業の製品はクマヒラ(東京都中央区)が手掛ける液体検査装置だけだ。

 「認証」を武器に日本のセキュリティー市場に食い込む欧米勢。かつて手荷物用のX線検査器で国内外の市場を席巻していた日立製作所やIHIも、認証への対応が遅れ、スミスなどの海外勢にシェアを奪われた経緯がある。

世界でも最新鋭の警備体制を整えていることで知られる、オランダのスキポール空港。かばんからパソコンやペットボトルを出さずに手荷物検査ができる
世界でも最新鋭の警備体制を整えていることで知られる、オランダのスキポール空港。かばんからパソコンやペットボトルを出さずに手荷物検査ができる

 海外勢は次にどんな製品を売り込んでくるのか。オランダのスキポール空港を見れば、その方向性はつかめる。同空港は世界の空港の中でもひときわ先進的な警備体制で知られているからだ。

 例えば、CT(コンピューター断層撮影装置)機能をつけた、手荷物用のX線検査器。パソコンやペットボトルをかばんに入れたまま、検査することが可能だ。自動で不審な手荷物をより分けるスマートレーンの運用も始まっている。羽田空港がスマートレーンの導入を決めているが、これも海外製の可能性が高い。

 日本企業がセキュリティー市場を攻めきれない理由は、欧米に牛耳られた「認証」制度だけではない。セキュリティー分野でも活用が進むAI(人工知能)など、技術革新の波に乗れないジレンマを抱えているのだ。

ロシア企業が有利のワケ

 不特定多数の人の映像からテロリストを判別する監視システムが象徴する。セキュリティー各社はAIなどの活用で、不審者を割り出す精度を競い合うが、ここで決め手となるのが、監視システムの「学習量」。どういう振る舞いをする人物が不審者なのかを覚えさせることが重要になる。

 こうなると、「国主導であらゆるデータを集められるロシアと、国民のセキュリティーへの関心が高く街頭カメラのデータも取得しやすいイスラエルが有利」と国内のセキュリティー機器開発エンジニアは指摘する。

 実際、ロシア企業は日本では考えられないデータを使っている。昨年開催の伊勢志摩サミットで綜合警備保障(ALSOK)が利用した自動監視システム「ディフェンダーX」。ロシアの半官半民企業エルシスなどが開発したが、過去の銃殺刑や犯罪者の尋問、人体実験などの大量の映像から、不審者を割り出すノウハウを会得したという。

 そのノウハウの肝の部分はもちろんブラックボックス化されているが、同社が目をつけたのは、ヒトが緊張したり、興奮したりすると皮膚表面や体の軸が細かく震える現象という。極度に緊張したりする時に発する特殊なその振動を、映像中の光の微妙な変化から捉えることで不審者を割り出すわけだ。

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