ホーマッツ:次の段階で重要になるのは、12カ国の議会がTPPを批准することです。万が一、批准されない場合、それは現状維持では済まなくなるかもしれません。中国が主導する自由貿易協定、RCEP(東アジア地域包括的経済連携)の交渉が進んでいるからです。

 RCEPはTPPと同じレベルの保護、例えば知的財産権や環境の保護を保証するものではありません。RCEPがまとまれば、低いレベルのルールに賛同する国々がこの地域を仕切ることになる。我々の影響力が小さくなってしまいます。

茂木:日本の場合、幸いにして安倍政権が安定しており、今後も続きそうです。かなりの高い確率で批准できると思います。私が心配しているのは米国です。

 米国では2016年、大統領選挙があります。選挙の前に議会で投票があれば、批准は可能でしょう。けれども、もし選挙までに投票がなされない時は、いったいどうなるのでしょう。次期大統領の有力候補とされるヒラリー・クリントンさんが、あまり賛成できないとおっしゃっているようですね。そこも非常に心配です。

米国の批准を阻むもの

 RCEPについては全く同感です。TPPは日米両国の努力の結果、非常に高い水準のFTA(自由貿易協定)になりました。これに比べてRCEPが設定する水準はやや低い感じがします。ですからTPPが先にできて、これを模範にしてその他の協定の交渉が進むのがよいと思います。

ホーマッツ:米国にとって理想的なのは、TPPができるだけ早い時期、例えば2016年第1四半期に批准することです。しかしTPPを巡って2つの政治的な問題があります。一つは、特定の業界が、自分たちが求めていたものが得られなかったと不満の声を上げていることです。例えば医薬品業界は、バイオロジックと呼ぶ薬品に関する特許に課される制約について懸念しています。農業やたばこ産業も不満を持っている。

 もう一つはもっと政治的、概念的なものです。環境とか労働環境保護の面でもっと進歩があってもよかったのではないかというわけです。

 しかし、TPPには多くの進歩があります。投資、労働環境、環境と野生生物の保護、さらに知的財産権、紛争解決、国有企業などの分野で、これまでのどの協定よりも多くの進歩を成し遂げました。

 12カ国が、自分たちの望んでいるものすべてを同時にかなえることは不可能です。ですから米議会には、TPPは完璧な協定ではないけれども、重要な部分においてこれまでに得られなかった進展があり、批准する価値があると認識してほしいのです。

インドネシアは拡大のカギ

茂木:今後、我々と同じ考えを持ち、TPPの基準を満たす国々が出てくれば、加盟を認めるべきだと思います。既にいくつかの国が手を挙げています。中国が加盟を望むなら、例外視すべきではありません。

 ただ、中国は今、経済的にかなり問題を抱えているようです。中国の経済成長率が低くなること自体は別に問題ないと思います。日本も高度成長を経験した後、安定成長時代に移りました。

 池田勇人内閣の国民所得倍増計画により高度経済成長が始まり、世界第2位の経済大国になりました。1973年に起こった石油ショックを克服しましたが、その後、経済成長がスローダウンしたわけです。

 私は中国経済において国有企業のウエートが高いことを懸念しています。安定成長に向かうプロセスの中で、このことがどう影響するのか。