クロマグロに近い味の名魚

 この魚は「スマ」というサバ科の魚。国内で養殖の実績は少ないが、タンパク質や脂質の含有量がクロマグロとほぼ同じという、隠れた名魚だ。味もクロマグロに近いとされ、年を追うごとに資源の確保が難しくなっているクロマグロの代わりに利用できるとの期待が高まっている。

 出荷時の体重が50kgほどになる養殖のクロマグロに対して、スマは3~4kg程度。ブリよりも小ぶりで、カツオと同程度の大きさで出荷できる。そのため大きな養殖場や配送設備を用意する必要がなく、一般的な養殖の設備を転用できる。泳ぎ続けないと死んでしまうのはクロマグロと同じだが、岩場近くにも生息する特性から、障害物を認識し、避けながら泳ぐ能力はクロマグロよりも高い。研究を主導する愛媛大学南予水産研究センター(愛南町)の松原孝博教授は「クロマグロよりも養殖しやすい魚」と話す。

 スマは愛媛県と、南予水産研究センターが2011年から研究を続けている。小さいうちは空腹になると共食いを起こすことが多いため、生の魚を餌としてこまめに与えるなど、養殖の方法に工夫を重ねている。

 天然の卵や幼魚に頼らず、人工ふ化させた親魚から採卵し、育てて出荷することを「完全養殖」という。スマでは完全養殖が2016年夏までに実現する見通しだ。現在、量産化への準備を進めている。

 愛媛県は11月、養殖したスマを「伊予の媛貴海(ひめたかみ)」と命名し、大々的に売り込む準備を進める。「希少性が高い愛媛の貴重な海の恵み」という意味を名前に込めた。2016年秋までに出荷し、首都圏の百貨店や料亭などに売り込む。海外の展示会に出展し、現地の高級飲食店への販売も検討する。

 スマは太平洋やインド洋の温帯・熱帯域などに生息する魚で、国内でも愛南町など平均水温が高めの地域でしか育たない。そのため愛媛大は、より低い海水温でも育つ「低温耐性」のスマの開発も進めている。低水温に強いスマ同士を掛け合わせる取り組みだが、研究が成功すれば、県内でも「宇和島など愛南町より北で、養殖業が盛んな地域での養殖が可能になる」(松原教授)。漁獲高の増加にも弾みが付きそうだ。

ウナギに近い味のナマズも

 鹿児島県・大隅半島の中央部にある東串良町。地元の養殖業者、牧原養鰻の養殖池をのぞくと、体重800~900g程度に育ったナマズが悠々と泳ぎ、出荷の時を待っていた。

 見た目は普通のナマズそのままだが、実は、同社が近畿大学農学部の有路昌彦准教授と組んで開発した「ウナギ味のナマズ」だ。2009年に研究を始め、今年に入り開発に成功した。

 日本全国に生息するマナマズを、きれいな地下水をはった養殖池で飼育して、ナマズ特有の泥臭さをなくすことに成功。餌はマスなど淡水魚、マグロなど海水魚に与えるものをうまく組み合わせて与え、ウナギに近い味を作り出した。

 牧原養鰻と有路准教授は今年8月、このナマズの量産化を目的に、生産会社の「日本なまず生産」(東串良町)を設立。牧原養鰻の牧原博文社長が新会社の社長、有路准教授が取締役を務め、鹿児島銀行系の地域企業支援ファンドの出資も得た。各地の養殖業者に飼育ノウハウを教えて養殖してもらい、育ったナマズを買い上げて商社や量販店に売ることで生産量・流通量を増やす構想だ。

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