似たような状況が起きているのは小豆島だけではない。グロソブの島とまで呼ばれなくても、同じように資産家が多く大都市圏からアクセスの良い島は瀬戸内海には点在する。

しまなみ海道で結ばれた島が狙われる
●瀬戸内海に浮かぶ島々
しまなみ海道で結ばれた島が狙われる<br />●瀬戸内海に浮かぶ島々
今治からクルマで移動できる島には、証券会社の担当者が頻繁に訪れる(写真=アフロ)
今治からクルマで移動できる島には、証券会社の担当者が頻繁に訪れる(写真=アフロ)

 愛媛県今治市の大島を2年ぶりに訪れた湯浅真人氏は驚いた。湯浅氏は、2014年に大手証券会社を退職し、今年独立系金融アドバイザー(IFA)になったばかり。大島で新しく顧客となった70代のC氏を訪れ、現在の金融資産を確認すると、目を覆いたくなるような状態だった。

 C氏の投資先は、証券マンの湯浅氏ですら事業内容を知らない新興市場の銘柄ばかり。バイオ関連の銘柄などを、市場で話題になったタイミングで購入しており、保有株の価値は2年間で3割減少していた。

 なぜこんな銘柄に投資するようになったのか。事情を聞いてみると、こうした株を薦めたのは、C氏が経営する企業のメーンバンクが数年前に設立した証券会社だった。

 C氏は、IFAとして資産形成のアドバイスを湯浅氏に依頼したことをきっかけに、保有株の価値がそれほどまでに下がっていると初めて気付いた。湯浅氏は、地銀系の証券会社にある銘柄を、自社が契約している楽天証券に移管。債務超過になった銘柄を売却し、ポートフォリオを組み直している。

 大島は面積は約40キロ平方メートル、人口は5000人に満たない小さな島だ。だが、この島にも小豆島同様、資産家は多い。地元で採れる「大島石」は日本各地に墓石として出荷され、全国的に知られている上、造船業なども盛んで船主も多いからだ。

 大手証券会社に加え、地銀系の証券会社などがこうした資産家を顧客にしようと、島に押し掛けている。湯浅氏は、「証券業務に詳しい社員がほとんどいない地銀系までが株式や投資信託の営業に乗り出したことで、大手証券会社だったらとても薦めないような銘柄を買っている人が増えている」と話す。

 投資はあくまでも自己責任。だが、販売する際に金融機関が十分な商品説明とリスク説明を怠っていたとすれば、話は別だ。

投信の仕組みへの理解は不十分
●分配金の特徴を知っている人の割合
投信の仕組みへの理解は不十分<br />●分配金の特徴を知っている人の割合
出所:投資信託協会

 「グロソブの島として新聞に取り上げられ、話題となった後、大手証券の高松支店にいる営業マンがフェリーに乗って小豆島に殺到した。当時の過熱ぶりを考えると、強引な営業をしていた業者がいたとしても不思議ではない」。島の投信ブーム以前から、唯一、島に支店を出し、地に足をつけ商売をしてきたいちよし証券小豆島支店の西村圭示支店長はこう懸念する。

小豆島と本州を結ぶフェリーや高速艇は、人や物流の大動脈
小豆島と本州を結ぶフェリーや高速艇は、人や物流の大動脈

全国のシルバー消費にも影響

 今後、新興国の通貨が一段と下落すればレアル建てファンドなどを抱える瀬戸内の高齢投資家の損失は膨らむ。そうなれば、その損を取り返そうとよりハイリスクな投資商品を購入したり、金融詐欺にだまされたりする人がますます増える悪循環になりかねない。

 そして自殺者などが出て事態が深刻化すれば、全国の高齢者は投資を危険なものと思い、政府や金融機関が目指す「貯蓄から投資へ」は画餅に帰す。そうすれば、貯蓄を取り崩しながら余生を送ることを決めた高齢者は財布のひもを締め、数少ない成長分野として多くの産業が期待しているシルバー消費全体にも大きな悪影響を及ぼすのは間違いない。

 静かに進行する“瀬戸内の金融危機”。その暴発を防ぐには、地域と当局が一体となって“裏”と“表”の金融業者の動きを監視することが欠かせない。

(日経ビジネス2015年11月30日号より転載)

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