10月下旬、某証券会社が島内のホテルで開いた株式セミナーに、60代以上と見られる高齢者を中心に40人ほどの投資家が集まった。中国経済の動向や欧州の金融緩和など世界の経済情勢についての説明に続き、個別銘柄の解説が始まると会場の雰囲気が一変する。
「これは宝くじ銘柄になるかもしれませんよ」
おすすめの銘柄紹介が始まると、セミナー参加者は、一斉にメモを取り始めた。この証券が島内の投資家向けに月に1度のペースで開催している同様の株式セミナーは毎回盛況で、島民の相変わらず強い投資意欲がうかがえる。
島民の動機は様々で、リスク資産への投資に前向きな島民の全員が、政府や金融機関の「貯蓄から投資へ」の掛け声に賛同しているわけではない。目減りした資産を取り戻そうという動機も大きい。
高齢者を中心に人気を博したグロソブだったが、2008年のリーマンショックで状況は一変する。世界的な金融緩和で超低金利時代に突入したことで、先進国の債権で運用するグロソブは、分配金が大幅に減少。リーマンショック直前には6兆円弱まで達していた資産残高は、今や1兆円を割り込むまで目減りした。
リスクが少ない投資商品としてグロソブを選んでいた投資家たちの多くは、期待を下回る分配金への対策として、株式や、よりリスクが大きい投資信託への投資にシフトしてきた。が、今のところ、かえって火に油を注ぐ結果になりつつある。多くの投資家がグロソブの次に向かったのが、海外の株式や債券などを、新興国通貨建てで運用する通貨選択型投資信託だったからだ。
通貨選択型投資信託は2009年から登場し、新興国の高金利や為替差益を元手に支払われる高分配金に魅力を感じた投資家の資金が集まった。中でも人気が高かったのが、ブラジルレアル建てで運用するタイプ。ワールドカップブラジル大会やリオデジャネイロオリンピック、資源高、インフレなどを材料に、2012~13年まで大ブームを引き起こした。グロソブがきっかけで全国的に有名になっていた小豆島にも様々な証券会社が押し寄せ、「数年前までは、レアル建ての投資信託を売りまくっていた」(大手証券会社の営業担当)という。
米国利上げで小豆島も揺らぐ
高分配が続いていたレアル建ての投資信託の雲行きが急速に怪しくなったのは2013年に入ってからだ。米国の利上げ観測が強まったことを機に、新興国の通貨が軒並み安に陥る。
そこにブラジル景気の悪化も重なり、運用成績が悪化。高い分配金を維持するために、運用資産を取り崩すいわゆる「たこ足」になるファンドが続出した。投資信託協会の調査によると、「分配金が支払われた額だけ基準価額が下がる」という分配型投資信託の基本的な仕組みを理解できている投資家は3割にすぎない。
運用成績の悪化を受けて、代表的な銘柄である野村アセットマネジメントの「野村米国ハイ・イールド債券投信(通貨選択型)ブラジルレアルコース(毎月分配型)」は2011年のピークから、2015年10月末までの間に残高が2割以下まで減少。全国的に見れば、パニックに陥った投資家は手じまいを急いでいる。
そんな中でも「レアル建ての投資信託を塩漬けにしている小豆島の投資家が実は多い」と、証券会社の営業担当者は明かす。
「運用報告書を見ると基準価額が下がっているのは何となく分かるが、担当者に言ってものらりくらりかわされるだけで、売るに売れないし、相談にも乗ってもらっていない」と小豆島の投資家。「いい時はしょっちゅうフェリーで高松から訪問していたのに、レアル建てのファンドの運用成績が悪化してから、お客さんに怒られるのが嫌で、足が遠のいている営業担当が多い」(地場証券)のが現状だ。
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