誘われるがまま、株を売買するための現金を指定の口座に振り込んだ。すると偶然、Z社の株が上昇。すっかり信じ込んでしまったB氏は、次々と銘柄を進められるがまま買い付けを頼み、現金を振り込む日々が続いた。

 その間、投資会社は「ライズキャピタル」「旭ホールディングスマネージメント」と次々に社名を変更。B氏の投資先は20銘柄まで増え、総額1400万円に積み上がった投資額は、アベノミクス効果などで約2500万円になっている計算だった。

 が、利益を確定しようとしても、投資会社は株を売らせてくれない。しびれを切らし取引解除の手紙を投資会社に送ったところ、宛先不明で戻ってきた。1400万円は今も消えたままだ。

 「小豆島における高齢者を狙う金融詐欺は、残念ながら、今に始まったことではない」。香川県小豆県民センター相談員の平林有里子氏はこう話す。

小豆島を襲った金融商品詐欺
●小豆島を襲った金融商品詐欺実際に送られてきた偽キャッシュカードや架空の投資勧誘のパンフレットなど
小豆島を襲った金融商品詐欺 <br />●小豆島を襲った金融商品詐欺実際に送られてきた偽キャッシュカードや架空の投資勧誘のパンフレットなど
[1]実在する銀行を装い、偽のキャッシュカードを送りつけ、本物のカードと暗証番号を返信するように誘うレターパック/[2]架空の株取引の実績を報告するために送られてきた、取引内容の明細書/[3]架空の水源の権利やインドネシアの鉱山開発への投資などを案内する金融商品詐欺のパンフレット
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狙い撃ちされるオリーブの島

 警察白書によると、全国で起きている金融商品関連の特殊詐欺事件の被害額は2014年、約125億円を記録した。単純計算で国民1人当たりの被害額は100円程度。小豆島の人口は約3万人なので、島民の昨年の金融詐欺被害総額は推定300万円となるが、「絶対にそんな規模では収まらない」と多くの島民は口をそろえる。

 県民センターが把握している件数だけを見ると、小豆島を含む香川県の金融詐欺の相談件数は2~3年前をピークに沈静化しつつある。が、平林氏は「だまされても自己責任だと抱え込んでしまったり、泣き寝入りしたりする人も多いはず」と指摘する。最近でも、株や金地金のみならず、水源権利や医療機関債、海外資源開発など怪しい投資勧誘の電話が報告されている。

ピークは過ぎたが被害額は高水準
●金融商品関連の特殊詐欺の推移
ピークは過ぎたが被害額は高水準<br />●金融商品関連の特殊詐欺の推移
出所:警察白書
小豆島産のオリーブ(写真=読売新聞/アフロ)
小豆島産のオリーブ(写真=読売新聞/アフロ)

 インドネシア・ロンボク島の金鉱山開発への投資詐欺もその一つ。パンフレットを開くと、過去に防衛相を務めた経験を持つ、ある政治家の顔が無断掲載され、驚くほど精巧に作り込まれている。「金融詐欺で失敗した損を取り戻せますよ」といった勧誘の電話も後を絶たず、最近では老人ホーム入居権の販売詐欺なども流行し始めた。

 なぜ小豆島は、詐欺グループに狙われるのか。現地取材からはいくつかの理由が浮かび上がる。

 一つは、単純に、「知られざる資産家集積エリア」であることだ。

 高松市の北東約20キロメートル沖に浮かぶ小豆島では、温暖な瀬戸内式気候を生かし、随所でオリーブなどが栽培されている。しょうゆやそうめん、つくだ煮、ごま油など全国区で競争力のある地場産品も多い。このため、島の一部は江戸時代には幕府の「天領」として、重要な財源になっていたほどだ。

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