誘われるがまま、株を売買するための現金を指定の口座に振り込んだ。すると偶然、Z社の株が上昇。すっかり信じ込んでしまったB氏は、次々と銘柄を進められるがまま買い付けを頼み、現金を振り込む日々が続いた。
その間、投資会社は「ライズキャピタル」「旭ホールディングスマネージメント」と次々に社名を変更。B氏の投資先は20銘柄まで増え、総額1400万円に積み上がった投資額は、アベノミクス効果などで約2500万円になっている計算だった。
が、利益を確定しようとしても、投資会社は株を売らせてくれない。しびれを切らし取引解除の手紙を投資会社に送ったところ、宛先不明で戻ってきた。1400万円は今も消えたままだ。
「小豆島における高齢者を狙う金融詐欺は、残念ながら、今に始まったことではない」。香川県小豆県民センター相談員の平林有里子氏はこう話す。
狙い撃ちされるオリーブの島
警察白書によると、全国で起きている金融商品関連の特殊詐欺事件の被害額は2014年、約125億円を記録した。単純計算で国民1人当たりの被害額は100円程度。小豆島の人口は約3万人なので、島民の昨年の金融詐欺被害総額は推定300万円となるが、「絶対にそんな規模では収まらない」と多くの島民は口をそろえる。
県民センターが把握している件数だけを見ると、小豆島を含む香川県の金融詐欺の相談件数は2~3年前をピークに沈静化しつつある。が、平林氏は「だまされても自己責任だと抱え込んでしまったり、泣き寝入りしたりする人も多いはず」と指摘する。最近でも、株や金地金のみならず、水源権利や医療機関債、海外資源開発など怪しい投資勧誘の電話が報告されている。
●金融商品関連の特殊詐欺の推移


インドネシア・ロンボク島の金鉱山開発への投資詐欺もその一つ。パンフレットを開くと、過去に防衛相を務めた経験を持つ、ある政治家の顔が無断掲載され、驚くほど精巧に作り込まれている。「金融詐欺で失敗した損を取り戻せますよ」といった勧誘の電話も後を絶たず、最近では老人ホーム入居権の販売詐欺なども流行し始めた。
なぜ小豆島は、詐欺グループに狙われるのか。現地取材からはいくつかの理由が浮かび上がる。
一つは、単純に、「知られざる資産家集積エリア」であることだ。
高松市の北東約20キロメートル沖に浮かぶ小豆島では、温暖な瀬戸内式気候を生かし、随所でオリーブなどが栽培されている。しょうゆやそうめん、つくだ煮、ごま油など全国区で競争力のある地場産品も多い。このため、島の一部は江戸時代には幕府の「天領」として、重要な財源になっていたほどだ。
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