瀬戸内海の島々で、金融関連のトラブルに巻き込まれる高齢者が後を絶たない。背景には、意外な資産家の多さや島の閉鎖性に目を付けた“裏”と“表”の金融業者の存在がある。事態を放置すれば、数少ない成長分野、シルバー消費全体にも悪影響を及ぼしかねない。(本記事は「日経ビジネス」2015年11月30日号からの転載です。記事中の内容は掲載時点のものです)
映画「二十四の瞳」の舞台となった香川県小豆島。東部にある小豆島町に50年近く暮らすA氏(74歳)の元に、怪しい電話がかかってきたのは2014年末のことだった。
電話口からは若い男の声。「X銀行本店のYと申します。重要なレターパックを送付しますので、お手数ですがご確認をお願いします」。X銀行はA氏のメーンバンクだった。
ほどなくして、電話で言われた通りレターパックが自宅に届いた。中には、「セキュリティー対策のためキャッシュカードを更新します」などと説明する書類と、個人情報取り扱いについての説明書、A氏の名前が印字された新しいカードが入っていた。別の書面には、「現在使っている暗証番号と、変更する番号を記入の上、手元にある古いキャッシュカードを同封して送ってください」。封筒にはX銀行のロゴも入っている。
住所は香川、消印は江戸川区
若い頃、金融機関に勤めていたA氏は不信感を抱いた。「キャッシュカードと暗証番号を封筒で送付など、まともな銀行がやることではない」。レターパックをよく見ると、疑わしい部分が次々と出てきた。
地元の地銀からの書類にもかかわらず、消印が「東京都江戸川区」。記載された発送元の住所は香川県だったが、郵便番号は愛媛県のものだった。
A氏は、すぐX銀行や警察に連絡。キャッシュカードと暗証番号をだまし取ろうとする、新しい手口の詐欺未遂事件として香川県警は、急きょ県全体に注意を呼びかけることになった。
こうした金融関係の詐欺事件がここ数年、この風光明媚な島で頻発している。被害に遭わずに済んだA氏は幸運な方で、多額の財産をだまし取られた事例も少なくない。
同じ小豆島町在住のB氏(78歳)は架空の投資話で約1400万円を失った。
やはり始まりは一本の電話。「Z社の株は確実に上がりますよ。うちの会社を通せば特別に、新聞に出ているレートよりも安く買えます」。バークレー・トレードという投資会社を名乗る中年男性からだった。最初は断っていたが、何度も電話がかかってくるため、「一度買ってみよう」と思い始めたという。
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