講義内容は「テクニカルスキル」と呼ぶ製造や物流の作業に直接役立つ内容と、「ヒューマンスキル」と呼ぶ人間性を養う内容に分かれる。

 創喜感働塾をスタートするまでに、「教育プラン策定や教材作成などで3年かかった」と、川相商事の相川定任・滋賀支社長は説明する。社員3人を教育専任として張り付けており、人件費を含めればこれまでの総投資額は1億円を超える。生徒となった社員は週1日稼げなくなるが、人件費は変わらない。厚生労働省から累計で1800万円強の助成金を得てはいるが、年商十数億円規模の川相商事にとっては決して少なくない投資だ。ビジネスモデルの根幹に関わる、社運を賭けた取り組みなのだ。

 取材に訪れたのは、金曜日だった。研修風景をのぞいてみると、5人の「塾生」がストップウオッチを片手に作業時間を計測していた。

 「うわ、意外と難しいぞ、これ」「さっきより、早くなったね」

 コルクボードに刺したピンに、ペットボトルのキャップを次々に並べていた。ビニール袋の中に入れたキャップを片手で扱ったり、取り出しやすい箱に入れたキャップを両手で同時にはめていったりと様々なパターンごとに時間を計測。どのような動作が作業現場でもっとも効率的なのかを学んでいた。

 「動作経済」と呼ばれる、製造業の作業における基本知識体系についての授業だ。様々な場面で応用が利き、製造や物流の現場の生産性向上が図れる。だが、「多くの企業は、こうした基本的なことも非正規労働者には教えない」と勝川氏は証言する。

 派遣・請負企業の大部分は、人材教育をコストとして捉えている。どうせ数年で去っていく人たちの教育に力を入れるのは、経営の観点で得策ではない、というわけだ。

 ところが、川相商事の川相政幸社長は、真逆の発想を打ち出した。「無期雇用化して、社員と会社がずっと付き合う関係になればよい。社員の能力向上は、請負や派遣というビジネスそのものの競争力向上につながる」(同)。今や、同社の正社員の半分以上を、創喜感働塾の卒塾生が占めるようになった。

 サービスの質が高まった効果は、数字としても表れつつある。2011年度に11.7%だった粗利率が、2015年度は18.4%と大幅に改善した。1人当たり生産性が、向上したためだ。

法律がやっと追いつく

 ここにきて無期雇用転換と教育の充実を志向する派遣法と労働契約法が改正されたことは、こうした問題にいち早く取り組んできた川相商事にとって追い風だ。ライバルが情報収集や教育プラン策定に追われるのを尻目に、サービスの質の向上や受注活動にまい進できる。

 業界全体が悩む人手不足も、同社が優秀な人材を集める上でプラスに働いている。「ハローワークに行っても、正社員募集のチャンスはほとんどない。だから川相商事を選んだ」と、ある塾生は証言する。こちらも、他社がいきなり無期雇用中心の雇用体系に転換するのは難しく、競争優位になっている。

 川相社長は、今年4月からさらに大胆な方針を打ち出した。請負の現場で働く全非正規社員が、無期転換できる制度を始めたのだ。労働者の目指すレベルに応じて12時間、もしくは16時間の研修を受け、社内試験に通れば無期雇用契約とする。来年からは、これを派遣スタッフにも拡大する。