2030年には10兆円の市場

 ダビンチは米国のインテュイティブ・サージカルが1999年から販売する手術支援ロボットで、世界トップシェアを誇る。このダビンチにおける「ロボット手術」が今、藤田保健衛生大学病院に限らず、全国的に普及しつつある。

 国内の導入台数は、2012年3月末時点の41台が、2015年6月には206台に到達。消化器外科、呼吸器外科、泌尿器科、婦人科などで使われ、手術件数は2010年の約500件から2014年は約7000件になった。ロボット手術のほとんどが保険適用外だが、2012年より前立腺がんの手術が保険適用されたことで、手術数はさらに増加した。

 経済産業省と国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は、国内の手術支援ロボット市場は2035年までに534億円になると予測する。世界に目を向ければ、その市場は2030年には10兆円という予測も出始めた。米国では、今年3月にグーグルがジョンソン・エンド・ジョンソン傘下のエチコンと戦略的提携を結び同市場への参入を表明するなど、急成長分野の覇権を巡る動きが活発化している。

2035年には500億円を超える
●国内の手術支援ロボット市場予測
出所:経産省、NEDO

 ロボット手術が増える背景には、従来の手術方法に比べたメリットの大きさがある。

 例えば、前立腺がんの開腹手術と腹腔鏡下手術、ロボットによる腹腔鏡下手術で比べた場合、ロボット手術の失血量は188ミリリットルとカップ1杯に満たないのに対し、開腹の場合745.3ミリリットル、腹腔鏡下の場合377.5ミリリットルといった報告もある。そのほか、入院期間の短縮、合併症や再手術、再入院リスクの低減なども大きな利点と言われる。

 特に従来の腹腔鏡下手術の場合、医師が2つの手に鉗子を持つが、「医者は、手首の回転などが十分にできず、腕に添え木をされているような感覚」(藤田保健衛生大学病院腎泌尿器外科の白木良一医師)。一方、ダビンチの場合、ゲーム機のコントローラーを扱うように、操作一つで鉗子の回転などができるため、医師の負担も少ないという。

 ダビンチの手術数が増えたことで、この流れを追い風と捉え、日本のロボットメーカーの参入が相次いでいる。川崎重工業、デンソーといった大手メーカーやベンチャー企業が今年に入って進出を表明した。ダビンチがある程度の市場性を証明してくれたことに加え、今からでも市場の一角を握れる可能性が十分あると考えているからだ。

 現在市場をほぼ独占しているダビンチには大きく2つの弱点がある。

 一つは、価格だ。本体価格が3億円弱するのに加え、10回程度の利用で使い捨てとなる鉗子が1本30万円前後。さらに、メンテナンス費用が年間約2500万円と、病院経営にのしかかる負担は少なくない。

 もう一つは大きさや仕様。「本体や鉗子は“米国仕様”。非常に大きく、日本人のような小柄で痩せた体形の人には必ずしも使いやすい設計になっていない」(宇山医師)。実際、ダビンチの手術では2010年に名古屋大学医学部附属病院で患者が死亡する事故が発生。ダビンチの鉗子が誤って臓器を強く圧迫したことが原因だ。医師の技量不足も指摘されたが、こうした事態を防ぐために、より日本人に適したコンパクトで軽量なロボットの開発を求める医師もいる。

 参入を開始した国内勢は、そうしたダビンチの弱みを突くことでシェア拡大を図ろうとしている。

 川崎重工と医療機器メーカーのシスメックスが共同出資して作ったメディカロイドはそうした企業の一つだ。川崎重工で培った産業用ロボットのノウハウを生かし「2016年度内に産業用ロボットを医療用に“味付け”したものを出し、その後2019年までにダビンチ対抗モデルを出す」(メディカロイドの田中博文・常務取締役)計画だ。