競争激化を受けて、早くも淘汰を指摘する声が関係者からは相次いでいる。「今の料金は明らかに安すぎる。体力のない事業者は生き残っていくのは厳しいだろう」(ヨドバシカメラの渡辺哲也・執行役員)。通信の品質維持も課題だ。利用者が急増すると、通信が混雑しやすくなる。「品質を犠牲にした安値競争では業界は成長しない」(NTTコミュニケーションズの北村和広・担当部長)。

市場は黎明期、参入が相次ぐ
●MVNO事業者数の推移
市場は黎明期、参入が相次ぐ<br/>●MVNO事業者数の推移
注:カーナビなどモジュール向け、PHS、広帯域移動無線アクセスシステム(BWA)の提供事業者を含み、通信設備を保有しないMVNOを除く
出所:総務省

 MVNOの拡大に、キャリアが対抗手段を打ち出すと見る向きも多い。現状の仕組みではMVNOが通話の定額サービスを提供するのは難しい。「通話の需要は強い。キャリアが料金の値下げに踏み切るなど、MVNO対策に本気で乗り出してきたら対抗するのは現状では難しいのではないか」と日本通信の福田尚久社長は危惧している。

 「価格だけでなく付加価値を示せるかどうかが今後の競争軸になる」と楽天の平井副社長は見る。昨年9月25日には米アップルから新しいiPhone(アイフォーン)が発売された。SIMフリー版が用意されているほか、各キャリアもロック解除に応じるという。買い替えのタイミングでMVNOへの乗り換えを検討する利用者も多いだろう。料金の安さは利用者の間では前提になりつつある。加えてMVNOならではのサービスを打ち出せるかどうかが、利用者獲得のカギになりそうだ。

<b>楽天は今年8月に楽天モバイル仙台駅前店を出店。開店時には平井康文副社長(左から2番目)も駆けつけた</b>(写真=村上 昭浩)
楽天は今年8月に楽天モバイル仙台駅前店を出店。開店時には平井康文副社長(左から2番目)も駆けつけた(写真=村上 昭浩)
端末メーカーにも及ぶ
SIMフリーショック

 「在庫は潤沢に用意しているはずだったが、こんなにも需要があるとは思いもよらなかった」。プラスワン・マーケティングの増田薫CEOは驚きを隠さない。2015年8月24日にオンラインストアで先行申し込みを開始した端末「Simple(シンプル)」に予約が殺到し、即日完売したからだ。

 シンプルは余計な機能をそぎ落とした従来型携帯電話、いわゆる「ガラケー」だ。機能を通話に絞っているために、フルに充電すれば1週間は電源切れの心配がない。ビジネスパーソンが仕事用に購入しただけでなく、「防災用に備蓄する目的で予約した人も多い」(増田CEO)という。

 シンプルの価格は5980円。この機種に同社のSIMカードを差し込めば、基本料金は1000円もかからない。キャリアが販売する携帯電話には「実質無料」のものも多く、基本料にしても無料通話分などを含めればキャリアの方が安い場合もある。だが、こうしたキャリアの端末を無料で手に入れたり、基本料を抑えたりするには、2年間契約した上で様々な割引を受ける必要がある。一方で、シンプルを6000円未満で手に入れるのに必要な最低利用期間はなく、いつやめても解約金はかからない。シンプルが受けた背景にこうした分かりやすさがある。

 MVNOのSIMカードの普及により、メーカーは通信会社と契約しなくても端末を直接消費者に販売できるようになった。これを好機と見て日本市場参入を進めているのが中国、台湾のスマホメーカーだ。

 代表が台湾メーカーのASUS(エイスース)。2014年11月に発売したSIMフリー端末「ZenFone5」は人気を集め、「これを目当てにした客が多く訪れた」(ビックカメラ新宿西口店格安スマホ売り場店員)という。この機種の好調を受けてエイスースは後続機を続々と日本に投入している。

<b>エイスースの人気端末「ZenFone 2」シリーズ</b>
エイスースの人気端末「ZenFone 2」シリーズ

 HUAWEI(ファーウェイ)、中興通訊(ZTE)、TCL集団──。エイスースに続けとばかりに、今年に入って中国メーカーも相次ぎ日本に本格参入している。グループ傘下の仏スマホブランド、ALCATEL(アルカテル)の主力機種を2015年8月末に投入したTCLコミュニケーションテクノロジーのアラン・レジューネ・バイスプレジデントは「日本はSIMフリー端末の拡大が見込める有望な市場」と話す。

<b>今年8月、中国大手のTCLは新端末を日本に投入すると発表した</b>
今年8月、中国大手のTCLは新端末を日本に投入すると発表した

 欧米をはじめ、海外の多くの地域ではSIMフリー端末が日本より普及している。こうした市場に向け性能の高いスマホを大量生産することで、コストを抑えられるのが中国や台湾メーカーの強み。メーカーがキャリア経由で販売するには、国際標準より厳しい品質基準をクリアしなければならず、これまで海外メーカーは日本市場を敬遠してきた。だがSIMフリー端末の人気の高まりで趨勢が変わった。「様々なルートで20社以上の海外メーカーが参入を狙っている」とあるメーカー幹部は明かす。「日本市場には参入の波が押し寄せている。それを押しとどめることは難しいだろう」(同)。

 水面下ではキャリアが中国メーカーと接近する動きも出ている。例えば、中国大手のファーウェイの最新SIMフリー端末を、あるキャリアが販売する計画が進んでいるという。キャリアと二人三脚で端末を販売してきた国内メーカーにとって、海外メーカーの参入は脅威だ。国内メーカーもSIMフリー端末の販売に乗り出しているが、「正直価格だけでは太刀打ちできない」(メーカー幹部)とこぼす。

 もっとも、日本の消費者の品質に対する要求は高く、手厚いサポートも求められる。「中国メーカーがアフターサービスなどにコストをかけられるかが課題」(ジェネシスホールディングスの藤岡淳一社長)だ。対する国内メーカーはサポートを充実して対抗する考え。メーカー間のつばぜり合いは激しくなりそうだ。

(日経ビジネス2015年9月21日号より転載、転載時に一部加筆修正)

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