眠気が高まると振動して警告
本体から伸びたコードの先には、赤外線センサーを内蔵したクリップがある。このクリップで耳たぶを挟むことで、運転手の脈波データを収集する。
センサーで収集した脈波データは、車内に設置した専用機器やスマートフォン(スマホ)でリアルタイムに解析し、「眠気レベル」を算出する。下のグラフは、ある運転手の眠気レベルがどのように推移したかのイメージだ。例えば、交通量が少ない高速道路では運転手の眠気が高まることが分かる。逆に、割り込みなどで緊張が高まった場合は、一時的に意識が覚醒することが見て取れる。
運転手の眠気レベルが高まっていると専用機器やスマホが判断すると、首にかけたフィーリズム本体が振動。「眠気を検知しました。休憩を取ってください」と音声で伝え、運転手に注意を促す。
本人が自覚していなくても、眠気のレベルが高まっていることがある。これを眠気の予兆として運転手に伝えるのがフィーリズムの特徴。本格的な睡魔に襲われる前に警告することで、事故の芽を未然に摘むわけだ。
「脈波は常に揺らいでいる。運転手が覚醒している時は脈波の変動が激しく、逆に疲れてくると変動が少なくなる」と、富士通ユビキタスビジネス戦略本部の山添雅秀シニアマネージャーは説明する。
脈波のパターンは運転手ごとに異なるが、フィーリズムはそれを自動的に検知して調整する。2週間程度使い続けると、眠気レベルを判定する精度がぐっと上がるという。
富士通の狙いは、単なる“目覚まし時計”の開発ではない。
どの車両の運転手がいつ、どこで、どの程度眠気のレベルが高まったのか。フィーリズムが収集したデータをトラックやバス会社の運行管理システムと連携させれば、眠気が起こりやすい場所や時間が明らかになる。これを活用し、眠くなりやすい道路を特定してハザードマップを作ったり、運転手の勤務シフトを工夫したりして、事故の危険をさらに減らすことを目指す。
脈派データをさらに分析すると、眠気だけでなく、ストレスや疲労の度合いなども分かるという。将来的には、「運転手の健康管理を支援するサービスも提供したい」と富士通の楠山氏は力を込める。フィーリズムの価格は5万~6万円。今後3年間で7万台の販売を目指し、データを蓄積していく考えだ。
メガネで「とろんとした目」を検知
眠気検知技術に商機を見いだしたのは、富士通だけではない。ブルートゥースなどの通信手段が普及したことで、様々な装置からリアルタイムにデータを収集できるようになったからだ。
医療用のセンサーで心電を計測し、眠気検知に取り組むのが東芝情報システムの「からだみらい安全運転見守サービス」だ。医療現場で使われている「Silmee(シルミー)」と呼ばれるセンサーを、ジェルで運転手の胸付近に貼り付ける。心電を分析して眠気を測るだけでなく、自動車内に設置したスマホで急ブレーキやハンドルのぶれ、車間距離なども検知。眠気と併せて運転手の疲労の度合いを総合的に判定できるのも特徴だ。昨年3月には川崎市のタクシー会社と共同で実証実験にこぎ着けた。
課題は「ジェルを使って心臓付近にセンサーを貼り付けることに抵抗を感じる運転手が多い」(東芝情報システム技術統括部の渡邊俊英参与)こと。そこで今後は、車内の空気の振動から脈波や心臓の鼓動を検知できる非接触型センサーや、リストバンド型センサーなどの採用を検討する。

バスやタクシー運転手といった“プロ向け”ではなく、一般ドライバーが使える機器も登場する。大手メガネチェーンのジェイアイエヌが昨年秋に発売した、多機能メガネ「JINS MEME(ジンズ・ミーム)」だ。
メガネのフレーム部分に内蔵した加速度センサーなどで体の動きを把握。さらに、鼻パッドと眉間に当たる部分に搭載した「眼電位センサー」を使い、まばたきや視線の動きをリアルタイムで把握できるという。
「とろんとした目」と表現されるように、人間の目は眠気を感じると特有の動きを始めたり、まばたきが多くなったりする。ミームはこうした挙動を検知してスマホにデータを送り、独自システムで眠気を判定して音声などで警告する仕組みだ。
居眠り運転防止技術は、全てのドライバーに恩恵をもたらす。現時点ではまだ精度や耐久性などに課題があるが、競合に先駆けられれば大きな果実を手に入れられるだろう。
(日経ビジネス2015年10月19日号より転載、転載時に一部加筆修正)
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