70年越しの計画実現

 しかし、本線は都市計画が立てられた1946年以降、開通のめどが立たなかった。結果、支線は常に交通量の多い状態となり、とりわけ2つの大きな道路が交差する新宿四丁目交差点は常に渋滞するようになる。未開通の本線を整備し、新宿駅周辺に用のない車をダイレクトに代々木、そして渋谷方面へバイパスすることが必要とされていた。

 本線がおよそ70年もの間開通しなかったのは、通過ルートの新宿御苑に群集している樹木の保全など、環境配慮のため道路計画の再検討に時間を要したからだ。ようやく2005年に都市計画修正が完了し、2010年に本線の工事が始まった。

 完成すると、新宿3丁目、4丁目の渋滞が大幅に緩和される。2008年に国土交通省が試算したところによると、その経済効果は2000億円以上だという。 環状第5の1号線の本線は、千駄ケ谷五丁目交差点付近で支線と合流する。ここはちょうど、タカシマヤタイムズスクエアの一部である、紀伊国屋書店の裏手に当たる。

 道路開通を見越し、この周辺でも再開発が始まっている。現在、日本製粉の本社となっているビルと、三菱地所が所有する日本ブラウンズウィックビルは取り壊され、2019年の完成を目指して16階建ての複合ビルに生まれ変わる予定だ。オフィスフロアは約2500人収容できる。

 この再開発事業は、東京都が推進する都市計画の一環でもある。新宿駅の線路に並行して渋谷、代々木方面に走る明治通り(環状第5の1号線)の沿道は、線路側はタイムズスクエアなど複数の大型ビルが立ち並ぶも、反対側は依然、住宅街や雑居ビルが並ぶ。

オフィス需要の流出防げ

 新宿駅南口周辺の整備と、それに伴うにぎわいの機運を明治通り沿道にまでうまく波及させるためにはまず、人の流れをスムーズにする必要がある。

 そう考えた東京都は、再開発を担当する三菱地所に、新宿駅南口からタイムズスクエアのデッキを延伸させて、明治通り沿道まで歩ける動線を作るよう要請した。こうすれば、新宿駅との接続がよりスムーズになる。

 「明治通り沿道と駅をつなぐ動線を確保すれば、街のにぎわいはより連続的なものとなり、周辺地域に好影響を及ぼす」(三菱地所)。開発の動きは今、新宿駅南口から代々木方面へと広がりを見せつつある。

 JR東日本、そして三菱地所が相次いで大型ビルを開設することは、新宿全体のオフィス需要の流出に歯止めをかける効果もある。新宿駅西口側の高層ビルの多くは築30~40年を超えてきた。老朽化で新宿を出る企業が後を絶たず、今や新宿のオフィス賃料は渋谷や池袋などと比べて低い。

 「新宿駅西口側のオフィス移転のニーズは高い」(三菱地所)。かつては大企業の多くが本社を構えた新宿。その活況をよみがえらせるためにも、人やモノの流れを新興の南口に寄せていく必要がある。そうすれば、東口や西口側の老朽化した施設の大規模な再開発が可能となり、バリューアップされるだろう。東西自由通路や交通ターミナルの創設は、新宿駅周辺で、再開発の好循環を起こすためにも必要なのだ。

 良い兆しは出ている。新宿駅西口の駅前広場。高速バスの乗り場が南口に移ることで、その跡地は再整備される方向で検討が始まっている。小田急電鉄は2011年、富士重工業(スバル)旧本社ビルで、新宿駅西口に面した新宿スバルビルを取得した。再開発を意識した動きであるとも取れる。

 日本の経済成長とともに拡大してきた街、新宿。東と西に分かれ、独自の街づくりを進めた時期もあった。だがこれからは新宿エリア全体で街の価値を高めていく時代だ。使いやすい街を実現すれば、多様な人が集まり、新たな価値・資源が創造される。インフラ機能の強化は、その「動機付け」の役割を果たしたにすぎない。

(日経ビジネス2015年6月8日号より転載)