EUのロシア離れで日本に秋波

日露の経済協力はこれから
●北方領土の潜在的資源
水産資源 カラフトマス、サケ、コンブ、カニ、ウニ、エビ、アワビなど
地下・海底資源 金、銀、天然ガス、メタンハイドレート、硫黄など?
生息する動植物 ラッコ、アザラシ、エトピリカ、オロロン鳥、ヒグマ、シマフクロウ、グイマツ、カタオカソウ(千島固有種)など
名所 爺爺岳、ソコボイの滝、材木岩、一菱内湖(以上、国後島)、西単冠山、散布山、ラキベツ滝(日本一の落差141m)、ライオン岩のエトピリカ生息地(以上、択捉島)など

 ところが近年、EUのロシア離れが加速している。きっかけは2009年、ロシアとウクライナのガス紛争だった。EUはエネルギーのロシア依存からの脱却にかじを切る。EUは国境を越えて国家間でエネルギーを融通し合うことを定めた市場統合を進めている。

 また、北米のシェールガスの台頭により価格競争が激化し、EUはロシアに天然ガスの値下げを迫っている。つまりエネルギー市場が、EU側の買い手市場へとシフトし、ロシアは東方に活路を見いだしているというわけだ。2012年末、ロシアは東シベリア太平洋石油パイプライン(ESPO)を完成させた。輸出相手国は中国や日本だ。

 東方シフトを進める理由は、まだある。極東ロシアの人口は直近で約625万人と減少傾向。一方、中国東北3省(黒竜江・吉林・遼寧)は1億人以上が住み、「ロシアは地政学的脅威を感じている」(蓮見教授)。

 8月、プーチン政権は「北方領土を含む極東の遊休地を、ロシアの国民に無償で分け与える」と表明、日本政府は不快感を示した。だがこれはロシアの日本に対するけん制というよりも中国への脅威に備える意味が大きい。開発や要人の視察は実効支配の強化でしかないが、ユーラシア全体を俯瞰すればロシアの東方シフトには合理性がある。

 ロシアの東方シフトは日本に経済的な利益をももたらす。蓮見教授は「ロシアの東方シフトに対し、日本は経済協力をしていいものかどうか、逡巡している。領土問題があろうと日本の独自性を発揮することこそが、これからの日本の外交の肝になってくる」。日本の「自立」こそが、領土問題解決の一番の近道なのかもしれない。

元北方領土島民 松村智氏(83歳)の独白
「島は永遠に戻ってこないのでは」

 私は国後島に14歳まで住んでいました。もう年が年だから、今回が最後の訪問になるという特別な気持ちで参加しました。かつて国後島で同じ学校に通った同級生は1人しか残っていません。多くの元島民が高齢になって弱り、島を訪れることが困難になっています。

 毎回、島を訪れるたびに、島が発展している印象があります。一昨年訪れた時は、欧米人とおぼしき季節労働者が島に入り、インフラ工事に従事している姿を目撃しました。(ロシアの実効支配が強まり)北方領土はもう戻ってこない印象を強くしています。永遠に戻ってこないのではとさえ思います。

 今秋に安倍首相とプーチン大統領の首脳会談が予定されていますが、それも期待はできません。

 いろいろな意見はあるでしょうが、個人的には色丹、歯舞群島の2島先行返還でもいいと思っています。そうすれば択捉、国後の2島への入域も可能になるからです。

 北海道の漁業関係者は、北方領土海域の海産物をカネを払ってロシアから買っています。領土問題が解決しない限り、ロシアのルールを守らなければ拿捕されます。昔、国後島を訪れた時、港に拿捕されていた日本の漁船がずらりと並べて係留されており、やはりこの地はロシアが支配しているのだと感じました。ロシアはソ連時代から「俺のものは俺のもの、お前のものも俺のもの」という感覚なんです。ですが色丹、歯舞だけでも決着がつけば、自由に海域で操業できます。

 北方領土が占領され70年が経過し、元島民が完全にいなくなるのは時間の問題です。だからといって交渉を滞らせることはあってはいけません。私たち島を知る者がいなくなっても2世、3世が意志を継いでくれています。安倍首相には、ぜひともこの島に入っていただき、元島民の心をくみ取っていただきたいと思います。

 仮に北方領土が日本に取り戻せても、ここに住んでいるロシア人を追い出すわけにはいきません。いずれにしても北方領土は日本人とロシア人が一緒に住み、共存共栄していくことになると思います。(談)

(日経ビジネス2015年9月28日号より転載)

まずは会員登録(無料)

有料会員限定記事を月3本まで閲覧できるなど、
有料会員の一部サービスを利用できます。

※こちらのページで日経ビジネス電子版の「有料会員」と「登録会員(無料)」の違いも紹介しています。

※有料登録手続きをしない限り、無料で一部サービスを利用し続けられます。