
安倍晋三政権発足後、両国の関係は良好だった。2012年3月、大統領選挙を前にしたプーチン首相(当時)は、「両国民が受け入れ可能な妥協が必要だ。(柔道でいう)ヒキワケのようなものだ」と発言。色丹・歯舞の2島の引き渡しか、さらにプラスアルファの果実がもたらされるのではとの臆測を呼んだ。
だが昨年、クリミア併合問題が勃発。米欧日の対露制裁が発動し日露関係は暗転する。ロシアは今年に入り日本側に揺さぶりを掛けてきている。下の表は近年の日露関係を「ポジティブ・ネガティブ」に分けたものだ。明らかにクリミア危機以降、関係が緊迫している。

極めつきは8月22日、メドベージェフ首相による択捉島の訪問だった。首相は「島は我々の領土だ。これからも訪れる」と挑発した。このロシア側のシグナルをどう受け取るべきだろうか。
「楽観的に言えば日露関係を前に進める上でのロシア側のポジション取り。悲観的に言えば経済協力を含めて、もはや日本には多くを期待できないとするロシアの見限り」。こう語るのは東京財団の畔蒜泰助氏だ。
同氏によれば、官邸はプーチン大統領訪日の方針を変えていない。政権支持率が下がりつつある中、領土交渉への糸口を見つけたい官邸の思惑がありそうだ。楽観論が功を奏するか否かは、現時点では不明である。逆に悲観論が真実だとするならば、北方領土交渉はより厳しい局面を迎えることになる。
一方で次のような見方もある。「かつては双方の存在がなくても生きていける日露だったが、双方が必要とする時期に来ている」(ロシア経済を専門とする立正大学経済学部の蓮見雄教授)。
こう話す根拠として、同教授はロシアが近年、主にエネルギー戦略で「東方シフト」を強めていることを挙げる。石油や天然ガスを産出するロシアは、GDP(国内総生産)の20~25%をエネルギー部門に依存している。特に欧州連合(EU)加盟諸国は、ロシアにとって最大のエネルギー輸出相手国だ。石油は88%、天然ガスは70%がEU向けである(2010年の実績)。
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