同時に動くこれら4つの再開発で生まれる延べ床面積は約69万平方メートル。六本木ヒルズ森タワー約2棟分に相当する規模だ。オフィスの賃貸床面積だけで約22万平方メートルに上り、ビットバレー終焉の原因となった床面積不足を補う。
「どんな企業でもいいから入居してほしいとは思っていない」と東急電鉄の野本弘文社長は語る。「渋谷はいろんな文化が次々と誕生する若者の街。それがいつの間にか混然一体となって新しい価値を生み出す。“カオス”が最大の魅力だ。目の前で毎日のように生まれている新しいアイデアを逃さず、ビジネスに結びつける企業に入居してほしい。我々はカオスを絶やさぬよう渋谷に様々な仕掛けを置いていく」。
東急の戦略に乗る企業も出始めている。東急不動産の内田氏は「渋谷から移転した企業に戻ってきてほしいと思って誘致をしている。具体的な企業名はまだ出せないが、手応えは十分にある。正直、再開発の床面積でも足りないくらいだ」と自信を見せる。
オフィス仲介の三鬼商事によると渋谷区の4月のオフィス賃料は前年同月比で約9%上昇。丸の内を抱える千代田区と肩を並べるまでになった。オフィスの空室率も2012年のヒカリエ開業後、低下の一途をたどっている。渋谷の不動産市場の活況は10年後や20年後の日本経済を担う企業の予備軍がそれだけあることを示す。「ビットバレー2.0を成功させ、賃料で丸の内を抜きたい」と内田氏は意気込む。

海外大手デベがシブヤに注目
壮大な再開発は世界の注目も集めている。「今、注目している都市はシブヤ。完成後だけでなくそのプロセスも含めて視察したい」。シンガポール大手デベロッパーや中国・上海のデベロッパーは口々にそう語る。
理由は2つある。一つは再開発がオフィスビルや商業施設、ホテルなどの「ハコモノ」を造るばかりでなく、渋谷に乗り入れる鉄道の利便性も高めようと一体開発している点にある。
既に2013年3月に東急東横線の地下化が完了。東京メトロ副都心線との相互乗り入れが始まった。埼玉県滑川町から神奈川県横浜市まで電車一本で移動することができる。乗り入れ開始後1年。利便性の向上で電鉄各社の乗降客数は合計で約4万人増加した。
2018年度には、相模鉄道の相鉄線が東急東横線などとの直通運転で渋谷駅に乗り入れる予定で、渋谷を訪れる人の数はさらに増える。これに伴い2027年までに東京メトロ銀座線の駅が渋谷ヒカリエ側に130メートルほど移動、JR埼京線のホームが山手線と隣接する。人の往来をよくするため、密集地で駅やホームを移動させる前代未聞の工事が進んでいる。
世界の有力都市で慢性化する交通渋滞は魅力を損ねる原因の一つだ。とりわけ東南アジアなどの新興国でその傾向が強い。舛添要一・東京都知事は「東京を世界に類を見ない渋滞のない都市にしたい」と指摘、首都圏の高速道路網整備に意欲を見せる。
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