トヨタ自動車とマツダは2017年8月、資本提携することで合意した。約500億円相当の株式を互いに持ち合う。電気自動車(EV)のプラットフォームを共同開発するほか、総額約16億ドル(約1760億円)を折半出資し、米国に年間30万台の生産能力を持つ完成車の生産合弁会社を設立する(図1)。
図1 トヨタとマツダが資本提携
約500億円分の株式を相互に持ち合う。電気自動車(EV)のプラットフォームを共同開発するほか、折半出資で米国に完成車の生産合弁会社を設立する。写真はトヨタが提供。日経テクノロジーオンラインが作成
両社がEV技術を共同開発する背景には、「儲からないEVに経営資源はかけられない」という共通の事情がある。EVの市場性については様々な予測があるが、当面は主流にはならないとの見方が多い。KPMG FAS執行役員 パートナー グローバルストラテジーグループの井口耕一氏によると、販売台数ベースのEV世界市場シェアは「2025年に9%、2030年に11%、2040年に18%」とさほど伸びない見通しだ(図2)。三菱UFJモルガン・スタンレー証券エクイティリサーチ部エクイティリサーチ課シニアアナリストの杉本浩一氏は、「2030年でもEVの世界市場シェアは10%未満」とみる。
図2 EVの世界市場シェア
FCVを含むEVの世界市場シェアは2025年に9%、2030年に11%、2040年に18%とさほど伸びない見通し。EVとFCVについては、トヨタと同じような予測である。ただ、業界ではよりアグレッシブな見方もあり、控えめな予測といえる
出典:KPMG FAS
EVの伸びが期待できないのは、「消費者に受け入れられないため」(杉本氏)。課題は、電池コストの高さだ。今後、革新的な電池技術が開発される可能性もあるが、「2030年には間に合わない」(同氏)という。米Tesla社のEVが売れているのは、「自動運転などの先進性と組み合わせているためで、EVそのものによる魅力ではない」(同氏)という。
消費者が本当にEVに魅力を感じれば、「環境規制も補助金も必要なく、スマートフォンのように売れるはず」(杉本氏)。しかし、事前予約が50万台を超えるTesla社の「Model 3」を除くと、「最も売れるEVでも年間3万~4万台にとどまる」。この数量でEV専用の車両を作ろうとすると、「金型代だけでペイしなくなる」という。
ただ、世界中で環境規制の強化が進み、自動車メーカーとしてEVは避けて通れなくなった。独Volkswagen(VW)社など欧州の自動車メーカーは欧州や世界最大の中国市場での環境規制に対応するため、EV事業を進めざるを得ず、「やるからには先行して他社にOEM供給しようと考えている」(同氏)。これに対し、トヨタやマツダは、経営資源をかけずに効率的にEV技術の開発を進めることを目指している。EVは儲かりにくく、政治情勢の変化によってはEVシフトへの流れが止まるリスクもあるからだ。
EV技術を開発する余力がない
開発の進め方については、見方が分かれている。杉本氏は、トヨタがEV技術の開発を主導すると予想する。トヨタは燃料電池車(FCV)を含め、電動化に関する幅広い技術を持ち、ハイブリッド車(HEV)では特許面で圧倒的な優位性を持つからだ。2016年末にはEV開発を担当する「EV事業企画室」も設置した。これに対し、マツダはこれまで一貫して「EVはやらない」という立場をとってきた。次世代エンジン「SKYACTIV-X」の開発で手一杯で、「EVまで開発する余裕がない」(同氏)。
余裕がないのはマツダだけではない。SUBARU(スバル)など、年間の販売台数が200万台に満たない中堅自動車メーカーは、どこも似たような状況である。このため、今回の提携にスバルやスズキなどが加わり、「日の丸連合」を形成する可能性もあると同氏は指摘する。技術をトヨタ方式に統一すれば、開発の効率化が図れる。トヨタにとっては販売台数の見込めないEVで、複数のOEM供給先を確保できる。
逆に、EV技術の開発はマツダが主導すべきとの見方もある。マツダには、多品種少量の車両を効率的に開発する「一括企画」と「コモン(共通)アーキテクチャー」のノウハウがあるからだ。EVは販売台数が見込めない一方で、様々な国の規制に対応するために多品種にならざるを得ない。会見でも、トヨタ社長の豊田章男氏が「軽自動車から乗用車、SUV(スポーツ・ユーティリティー・ビークル)、小型トラックまで幅広い車種を視野に入れる」と述べている。
トヨタは、こうした多品種少量への対応が苦手だと、ナカニシ自動車産業リサーチ代表兼アナリストの中西孝樹氏は指摘する。「カムリ」や「カローラ」のように世界中で大量に売れる「一品モノ」の開発を得意とする同社がEVのような多品種少量品を手がけると、「技術が大げさになり、コストが高くなってしまう」(同氏)という。
そこで、トヨタが大量に保有する電動化のノウハウをマツダに提供すべきだと中西氏は言う。マツダは持ち前の企画力で、将来のロードマップを作り、複数の車種に対応したコモンアーキテクチャーを開発する。これによって競争力の高いEV技術ができる。さらに、マツダはシステムの統合制御に欠かせない「モデルベース開発」で高い実力を持つ。これを組み合わせれば、「いい勝負をするのではないか」と中西氏は期待する。
EV市場の拡大がこれまでの予測通り、ゆっくりと進むのであれば、マツダ主導で良いだろう。しかし、“脱ディーゼル”を図るVW社が本気で低コストのEVを出してきた時は、話は別だ。対抗するためにトヨタが開発を主導し、マツダやスバル、スズキなどと技術を共有していくことを考えるべきだろう。
米国の新工場は双方に利点
一方、新工場は主力の米国市場で安定的に事業を継続するために欠かせないという認識が多い。一般的に、自動車工場は「約30年を見越した投資になる」(杉本氏)。このため、新工場は短期的にはトランプ政権への配慮という意味合いもあるが、中長期的に米国市場で現地生産が求められることを考慮しているとみられる。
特に恩恵を受けられるのはマツダである。マツダはメキシコ工場の生産能力を年間25万台に拡張したばかりで、単独で米国に新工場を建設する余力はない。仮に建設できたとしても、自動車工場では年間20万~30万台の生産能力がないとペイしないといわれており、マツダ単独では生産能力が過剰になってしまう。トヨタとの提携では、年間30万台の工場を折半出資で建設し、マツダは年間15万台の生産能力を持つことができる。「これはマツダにとっては願ってもない話だ」(同氏)という。
生産工程を一部共通化することによるシナジー効果も期待できそうだ。少なくとも、自動車工場の中で最もエネルギーを消費する塗装工程は、「共通化しないと意味がない」(中西氏)という。場合によっては、プレス工程も共通化できる可能性があるという。
(日経Automotive、2017年10月号より)
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