ソフトバンクが自動運転車を使うサービスの事業化に乗り出した。自動運転技術を開発する東京大学発のベンチャー企業である先進モビリティと合弁で、2016年4月1日付で新会社「SBドライブ」を設立。年内に実証実験を始め、2018年をめどに地方での商用サービスを展開する計画だ。
「当社が目指すのは、どこにでも行ける自動運転車を開発することではない。自動運転車に必要な通信やサービスを提供することに注力する」。SBドライブで社長CEO(最高経営責任者)を務める佐治友基氏はこう断言する。
自動運転車を使ったサービスと聞いて、真っ先に思い浮かぶのが米グーグルだろう。SBドライブCOO(最高執行責任者)の宮田証氏は、「最終的に目指しているところは同じ。彼らよりも先に、公共交通などで自動運転サービスを実現させていく」と意気込む。
自動運転技術を活用した特定地点間の移動サービスや公共バス事業、隊列および自律走行による物流などの実用化を目指す。まずは2018年をめどに、バスやトラックを使ったサービスを始める計画だ(図1)。
図1 ヒトとモノの2軸でサービスを検討
2016年4月に設立したSBドライブは、地方自治体と組んで2016年内にも実証実験を開始する。まずは限定範囲での自動運転サービスから始め、2020年以降は完全自動運転を見据える
SBドライブは既に、福岡県北九州市や鳥取県八頭町との連携協定を締結済みだ。早ければ2016年内にも実証実験を開始する。実証実験では、「地域ごとの特性に合わせた自動運転サービスを構築し、経済が回るか否かを検証していく」(佐治氏)。
「モノ」を動かすことを強く意識
SBドライブは、地方での商用車利用に商機があると読む。人の移動に向けたサービスでは、路線バスや特定区間を行き来するシャトルバス、乗合タクシーなどを想定する。自動運転車を使えば人件費を抑えられ、地方の公共交通機関よりも収益性は高まると見込む。車両は、先進モビリティが既存のバスやトラックを改造する。
SBドライブの戦略で注目したいのが、「ヒトだけでなくモノも動かすサービス」(宮田氏)を強く意識している点だ。例えば、自動運転車を使った“移動商店”が考えられる。食材、雑貨などを積み、集落まで決まった時間に運ぶ。EC(電子商取引)向けの物流市場が年々拡大していることも見逃せない。
SBドライブが提供を目指すのは、通信環境や運用、メンテナンスを含めた自動運転サービスである(図2)。この中でソフトバンクは、通信に強みを持つ。SBドライブCTO(最高技術責任者)の須山温人氏は、「自動運転ではコネクティビティー(常時接続性)が不可欠」と語る(図3)。LTEや第5世代(5G)の移動通信を利用していくという。
図2 水面下で準備していたソフトバンク
SBドライブの設立に先行してソフトバンクは、中国最大の配車サービスを手がける滴滴出行などへの出資や、グループ子会社での自動車技術の開発を進めてきた
図3 30歳代で固めた幹部
SBドライブの設立は、佐治氏が2015年5月にソフトバンク社内のプレゼン大会で自動運転車を使ったサービスのアイデアを披露したのがきっかけ。その後、ヤフーを始めとするグループ会社から人材が集まった。
ソフトバンクグループに点在していたサービスや要素技術も積極的に活用していく。ヤフーには、ナビや乗り換え案内、ゲームなど様々なウェブサービスがある。ソフトバンク子会社には車載向けのセキュリティー技術や組み込みOS(基本ソフト)の開発を手がける企業もあり、それら経営資源をSBドライブに集めて一つのサービスに仕上げる。
自動車メーカーとは「真っ向から競合することはなく、連携できる」(宮田氏)と考えている。確かに自動車メーカーの多くは乗用車を使って人を運ぶことに注力している。SBドライブとしては、「通信やウェブサービスなど、当社の強みを(自動車メーカーに)提供していける」(同氏)という。
中国を中心にアジア進出狙う
SBドライブは、日本を皮切りにアジア市場への進出を狙う。それを見据えて、地域や目的などで多様化する自動運転サービスに対応可能な「複数のメーカーの自動運転車を扱えるプラットフォーム」(須山氏)の開発を進める。
アジア市場への進出に向けた種まきも実施済みだ。特に目立つのが、アジア各国の配車サービス企業への投資である。中国最大手の滴滴出行を筆頭に、インドOLA社やシンガポールのグラブタクシー、さらには米リフトにも出資している。総額は10億ドル(1ドル=100円換算で1000億円)以上だ。
ソフトバンクは中国EC最大手であるアリババグループとの関係が深い。韓国のEC大手のクーパンにも、2015年に10億ドル(1000億円)を投じた。ソフトバンクがアジアに存在する巨大な物流市場を強く意識している様子がよく分かる。特に中国は、グーグルが入り込めていない未開の市場だ。SBドライブの佐治氏は「アジアはソフトバンクが取ったというようにしたい」と意気込む。
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