日産自動車は2016年7月末、高速道路の単一車線上での運転を支援する「プロパイロット」を発表した。渋滞走行など低速域でも、アクセルやステアリング、ブレーキを自動操作するのが特徴。日産は“自動運転技術”と呼ぶが従来と同様の運転支援システムであり、運転者は運転に注意を払う必要がある。
8月24日に発売する3列シートの新型ミニバン「セレナ」から搭載する(下写真、図1)。同技術を搭載した車両の価格は発売時に公開するというが、300万円を切る水準に設定するという。
「プロパイロット」を採用する新型「セレナ」。高速道路で低速を含めた自動追従の運転支援システムを搭載したのは日本車で初めて
図1 プロパイロットのシステム構成
単眼カメラで、車両前方の車線や先行車を検知し、ステアリングやアクセル、ブレーキを自動制御する
プロパイロットは、先行車追従機能と車線維持支援の二つのシステムを同時に、停止まで含めて使えるようにした(図2、3)。高速域だけでなく、渋滞走行時でも先行車に追従して運転するため「運転者の運転負荷を大きく軽減できる」(AD&ADAS先行技術開発部長の飯島徹也氏)とする。
図2 プロパイロットの今後の展開
2016年の高速道路単一車線、2018年の同複数車線、2020年の交差点など市街地の3段階で進化させる
図3 プロパイロットの特徴
イスラエルMobileye社の画像処理チップを採用することで、車線や先行車を高精度に解析する
副社長で開発担当の坂本秀行氏は「自動車事故の9割は運転者に原因がある。今回のシステムは運転者の負荷を減らすため、究極の目標である事故ゼロに近づく」と述べる。
単眼カメラで車両前方の先行車や白線を検知する。逆光などで車両前方を検知できないときは、運転者に主導権を戻す「オーバーライド」の仕組みを導入している。
渋滞などで停止しても約3秒までであればシステムが継続し、それを超えるとステアリングホイールに設置した専用ボタンを押すことで継続利用できる。渋滞などで車両が停止しているときは、ESC(横滑り防止装置)で4輪に制動力をかけているが、3分を超えるとESCから電動パーキングブレーキ(EPB)に切り替わり、プロパイロットのシステムはキャンセルされる。
手はステアリングに触れている
プロパイロットの作動速度は0~100km/hで、単一車線内に収まるようにEPS(電動パワーステアリング)を自動操舵する。ただ、人が運転するのが前提の支援システムであるため、運転者はステアリングホイールに手を触れている必要がある。
先行車追従機能「インテリジェントクルーズコントロール」は、「フーガ」や「スカイライン」で採用している。ただ、停止すると3秒程度でシステムが解除されてしまう仕組みだった。停止状態が多く発生する渋滞走行には使えなかったが、今回のシステムでは3分までであればボタンを押すだけで継続使用できる(図4)。
図4 プロパイロットの機能
渋滞時の走行における負荷軽減が主な目的。停止した場合でも3分以内であればシステムが継続する
車線維持支援システムは、2001年1月に発売した上級車「シーマ」で採用したことがあり、70km/h以上の高速域に限定していた。今回は、停止まで含めて利用できるようにした。ただ、50km/h以下では先行車がいる場合のみ作動する。
プロパイロットは、運転者の操作を助ける“運転支援システム”との位置付けだ。事故が発生したときの責任は運転の主体である運転者にある。この機能を、2018年に高速道路の複数車線、2020年に交差点など市街地と範囲を広げていく。
最終的には完全自動運転に
日産は自動運転を、現在の運転支援システムという位置付けから、2020年以降は運転支援ではない完全自動運転に昇格させる計画だ。完全自動運転では、システムが責任を負うことを想定している。今回、“自動運転技術”と呼ぶのは「完全自動運転に向けた技術」という意味合いが含まれている。技術と呼ぶことで、顧客に完全自動運転システムではないと理解してもらう狙いがあるという。
日産は、2020年までの同技術の進化に合わせて、現在の単眼カメラ以外のセンサーを搭載していくとともに、カー・ナビゲーション・システムや通信インフラとの連携を強める。
2018年に予定している高速道路の複数車線の走行では、まず車両側方を検知するためのセンサーを追加する。複数車線の自動運転では、斜め後ろから接近してくる車両や、移動先の車線に進入しようとする2車線隣の車両を検知する必要がある。さらに、目的地や車速に応じて、適切な車線を走行する必要もある。「複数車線を自動運転するために、カーナビの地図情報と連携していく」(AD&ADAS開発部統括グループ部長の徳岡茂利氏)とする。
2020年の“交差点など市街地での自動運転”という目標については、東京オリンピックに間に合わせるために設定したもの。まだ試行錯誤の段階とするが、インフラ連携で交差点のカメラから歩行者や自転車の接近情報をデータ通信で取得したり、通信モジュールで高速道路のコーナー先の事故車両情報を受信することで、自動運転技術の信頼性を高めていく方針だ。
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