ベンチャー企業と大企業の真の連携

 自前主義では、イノベーションの創り手とその事業の担い手が同一でした。第1次オープンイノベーションにおいては、イノベーションの創り手とその事業の担い手は異なります(「オープンイノベーション=他者からイノベーションを取り入れる」なので、当然です)。ただし、イノベーションの創り手が大学・ベンチャー企業であることは想定されておらず、自社の利益のためという色彩が強いものでした。これに対し、第2次オープンイノベーションにおいては、イノベーションの創り手とその事業の担い手が異なる上に、創り手は大学・ベンチャー企業が前提となります。そして特筆すべき特徴は、大企業とこれらの創り手とがWin-Win関係を目指す点です。

 先日、京都大学の知財戦略会議2017 でオープンイノベーションに関するセッションのモデレーターを務めました。その際、「今や、ベンチャー企業が大企業を選ぶ時代なのだ」という大企業のパネリストの方の発言にはしびれました。時代は大きく変わろうとしているのです。

 さて、第2次オープンイノベーション時代の幕開けにタイミングを合わせるかのように、その手法論に関する政府報告書「事業会社と研究開発型ベンチャー企業の連携のための手引き(初版)」が公開されました 。私も委員を務める同委員会の議論をベースに、この報告書では、以下のような項目が論じられています。

  • 大企業とベンチャー企業の連携に関する意識や現状についてのアンケート調査結果
  • 連携のプロセス論(オープンディスカッションから契約締結、実行まで)
  • 上記に関する自己診断シート(大企業用、ベンチャー企業用)

 この報告書は、新規事業開発・CVCを担当する人には必見の資料です。ちなみに、契約交渉のセクション(報告書48~49ページ)には、拙著「技術法務のススメ」(日本加除出版、2014年)の内容が引用されています。

 第2次オープンイノベーションには、さまざまな課題があり、一朝一夕にはいかないことは、現場にいる我々は十分に理解しています。こうした手引きを何冊用意したところで、小さな一歩にしかならないかもしれません。しかし、企業規模の大小を問わず、日本の競争力を高めるべく、Team Japanを形成して一致団結するのだ、というメッセージを伝えられたことが、今回のプロジェクトにおいて最も重要な成果であると考えています。

 何より、これまでは互いに自分の利益しか考えていなかった大企業とベンチャー企業が、イノベーションの事業化というプロセスを通じ、日本の競争力強化というより大きな視点を持てるようになれば、日本は世界に尊敬される技術立国に必ずなることができると思っています。

日本を代表する知財系弁護士の鮫島弁護士が「知財戦略」を伝授します。特許を積極的に活かした事業戦略・研究開発戦略を立てることで、技術が陳腐化する環境下でも企業が高い収益を維持する理論です。特許データを使って分析して事業戦略を立てるため、成功率が高まります。

6月2日、東京・新橋で開催。詳細はこちらから

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