根岸:とにかく企業は、もうけない限り存続できないわけですから、大学に比べたら企業のほうが切迫感はずっと強いですよ。だから日本の企業は大学よりもいい点を与えられるでしょう。むしろ日本の大学は日本の超一流企業を見習ってほしいですね。

 私は文部科学省から頼まれて、数十の新しいタイプの研究チームの総括をしていました。いつもトップはトヨタ自動車、つまり企業でした。企業は本気でやりますからね。かといって、トヨタは車を作って利潤だけを追求しているわけではありません。

山口:「新車CO2ゼロチャレンジ」など、社会に貢献するための活動も続けていますよね。

根岸:そういう非常に本格的な、学問的な仕事もしています。

山口:最後に根岸さんのこれからの夢というかビジョンをお聞かせいただけますか。

根岸:やはり本気になって研究をやる方が1人でも増えることですね。ノーベル賞を受賞するような研究者が私のお弟子さんから出るといったことは夢としてあります。そして、それに近い方もいるように思います。

 今の日本がちょうど欧米と中国・アジアの中間に入って、妙な形で孤立するような傾向はなきにしもあらずです。「個の力」を引き出すためにも、日本の若者にはもっと海外に出ていってほしいですね。そして日本の教育は、底上げよりもトップクラスを引き上げる、つまり出るくいを伸ばしていく方が全体を引っ張る力になると思いますね。

山口:日本の大学改革は急務の課題です。21世紀に入ってから、日本の学術論文数が足踏みし、化学は何とか持ちこたえているものの、産業に直結する物理学や分子生物学の落ち込みは激しいものがあります。これまでのパラダイムを壊すような研究が、日本からはほとんど出なくなってしまいました。

 本当は「個の力」を育み、もっと多様な共鳴場にならねばならない地方大学の多くに対して、国は「研究をやらなくてよい」とまで烙印を押そうとしています。これでは、ますます大学からパラダイム破壊型イノベーションを生み出すような科学知が生まれなくなります。

 一方、アメリカでは、根岸さんのおられるパデュー大学のように、都市から遠く離れた地にあるが故に、研究競争に打ち勝つために若き有能な研究者を目利きして採用し、ついに世界のセンター・オブ・エクセレンスになった大学もあります。

 これからも、日本の大学のあり方について、どんどん俯瞰的なアドバイスをしていただければ、と心から思います。本当にありがとうございました。

(写真:栗原克己)
(写真:栗原克己)
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『物理学者の墓を訪ねる ひらめきの秘密を求めて』
最も偉大な物理学者が眠るのは遊び心満載の“遊園地"だった

 「ニュートンが万有引力の法則を発見した瞬間」「湯川秀樹が中間子を思い付いた瞬間」――。偉大な物理学者たちによる「創発」は、いかなるプロセスから生まれたのか。著作や論文にも記されていないひらめきの秘密は、「墓」にあった。

 物理学者の墓石に刻まれた文字からは、生前の業績だけではなく、遺族や友人たちの思いや、亡くなったときの時代背景などが浮かび上がってくる。自らも物理学者であり、数々のベンチャー企業を創ってきた筆者が、世界を変えた天才たちによる創発の軌跡をたどるとともに、現代のイノベーション論にも言及するスケールの大きな著作。