この世にないものをあらしめる研究

根岸:数年前に、デュポン(米国を代表する総合化学会社)の本社に行って本当に驚きました。まず、デラウェア州ウィルミントンのとてつもなく大きな建屋に、ものすごい数の研究員がいるわけです。ざっと1000人近いその人たちが助手ではなく研究員なんです。そのスケール、そしてその研究員がみんな博士号を持っていると聞いたときは、びっくり仰天しました。

 経営方針そのものが、研究を通してビジネスになることを発見し、自分のところで当てるんだ、ということなんですね。デュポンが当てなかったら、他は当てられないかもしれない。

(写真:栗原克己)
(写真:栗原克己)
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山口:私はなぜ日本社会では博士を不要だと思っているのかなとずっと考えてきました。博士って何をするのか。博士は要するに研究をします。では研究とは何かというと、この世の誰も見つけてないことを見つけることです。あるいはこの世にないものをあらしめることです。それこそが、幸せな社会をつくるんだ、だからイノベーションを起こすんだという確固たるビジョンが、アメリカやヨーロッパの社会にはあったのだと思うんです。

根岸:確かにありましたね。

山口:一方、日本社会では、いやいや、イノベーションとはそうした発見や創造、すなわち私が言うところの創発からは生まれないと考えているのではないでしょうか。日本は一生懸命に海外のまねをして、それを自分たちで改善していく、という姿勢がずっと身に付いている。そのため、発明や発見のために研究をする博士を必要としていないのかな、という気がしてならないんですよ。

根岸:本当にそうだと思います。

次回に続く

『物理学者の墓を訪ねる ひらめきの秘密を求めて』
最も偉大な物理学者が眠るのは遊び心満載の“遊園地"だった

 「ニュートンが万有引力の法則を発見した瞬間」「湯川秀樹が中間子を思い付いた瞬間」――。偉大な物理学者たちによる「創発」は、いかなるプロセスから生まれたのか。著作や論文にも記されていないひらめきの秘密は、「墓」にあった。

 物理学者の墓石に刻まれた文字からは、生前の業績だけではなく、遺族や友人たちの思いや、亡くなったときの時代背景などが浮かび上がってくる。自らも物理学者であり、数々のベンチャー企業を創ってきた筆者が、世界を変えた天才たちによる創発の軌跡をたどるとともに、現代のイノベーション論にも言及するスケールの大きな著作。