天野:そうですね。「完全に安全です、安全係数をものすごく上げています」ということだけが市民に知らされていました。

山口:私たちいわゆる物理学者ですら、原子力にコミットできない。

天野:できなかったですね。「安心です」と書いてあるから、その後、思考が停止してしまって。

山口栄一氏
山口栄一(やまぐち・えいいち)
京都大学大学院総合生存学館(思修館)教授。1955年福岡市生まれ。専門はイノベーション理論・物性物理学。1977年東京大学理学部物理学科卒業。1979年同大学院理学系研究科物理学専攻修士修了、理学博士(東京大学)。米ノートルダム大学客員研究員、NTT基礎研究所主幹研究員、フランスIMRA Europe招聘研究員、21世紀政策研究所研究主幹、同志社大学大学院教授、英ケンブリッジ大学クレアホール客員フェローなどを経て、2014年より現職。著書多数。(写真:上野英和)

山口:このように「科学が社会を損なうかもしれない」という議論に対して、私たち科学者はどう考えていけばいいんでしょう。例えば今なら人工知能(AI)です。世の中を変える技術に対して、昔は期待が大きかったけれども、今は不安が出てきている感じがします。

天野:確かにAIも心配されている方は多いですね。ただ、私はAIについては全く心配していません。まずコンピューターはデータがなければ、ただの箱です。機械学習という素晴らしい解析手法ができただけのことで、あれは実験計画法にちょっと毛が生えた程度ですね(笑)。

山口:そういうことですよね。

天野:だから昔から考えていることが少しずつ現実化してきたということです。AIによって職業がなくなると、特に若い子たちが心配しているんですよ。でも私は、「全然心配することはないよ、AIができたらそれを利用して、もっと新しい商売を考えればいいんだよ」と言っています。

山口:なるほど。でもAIがどんどん進化して、それこそ研究のように人間しかできないと思っていたことはどうなるでしょうか?

天野:研究もAI(笑)。

山口:研究はやっぱり人間しかできないと思いますか?

天野:うーん、難しいですね。

山口:というか、いわば創造と発見をAIができるかどうか。

天野:AIができること、というか、ビッグデータを解析してできることは、もうそれに任せてしまえばいいと思うんですよ。人間はそれでもできないことを考えればいいんじゃないですかね。

若い人が活躍できる社会に

山口:話を未来に向けると、これまで科学を職業科学者しかやってこなかった。いわゆるサイエンティストとは、よく考えると科学者というよりも職業科学者ですね。そうではなくて、これからは市民が科学者になる時代だと私は思っているんです。