ジェイテクトは前身の1社である光洋精工が1989年に世界初のEPS(電動パワーステアリング)を開発した、EPSのパイオニアである。この世界初のEPSを開発した経緯がなかなか面白い。それはスズキ「セルボ」のオプション装備として開発されたそうだ。
「実は360ccのエンジンでは、パワーステアリング用の油圧ポンプを駆動させるとエンストしてしまった。そこでスズキから何とかしてほしいと言われたのがきっかけだった」。そんな裏話を教えてくれたのは、ジェイテクト ステアリング事業部の佐々木裕人理事である。
世界最初のEPSは軽自動車用、それも据え切り時のみに作動するものだった。走り出してしまえば、軽自動車のステアリング操舵はそれほど力が要らないからだ。「EPSは使う時だけ動かすので、省エネでもある」(佐々木氏)。
そう、燃費改善のための効率化にもEPSは欠かせない。さらにチューニングが自在にできるというのもEPSのメリットだ。トルクセンサーによる操舵力の入力だけでなく、車速、操舵の加速度、パラメーター次第でアシスト量をどのようにも制御できる。EPS自体は独立したシステムでもあり、さらには協調制御によりスポーツモードなどのモード切り替えも対応できる。最近、国産旧車を中心にEPSを後付けできるようにしてくれる業者も登場してきている。これもEPSならではのメリットと言えるだろう。
そう言えば生産ラインを取材していて気付いたことに、ウオームシャフトを削り出してから焼き入れなどの熱処理をする工程がない。通常、歯車であれば熱処理をして強度を高める工程があるはずだ。
ウオームシャフトはスチールのシャフトから削り出されて研磨されることにより成形される。仕上がりは研磨のまま、熱処理などで硬度を高めることはない
自動運転によるクルマの革新は、自動車メーカーだけでなく、サプライヤーのビジネスも大きく変える可能性があります。特に大手部品メーカーは、自動運転システムの構成部品だけでなく、地図やバックエンドの配信システムなどを含めた自動運転サービスのサポート体制を整えつつあります。これまでのハードウエア中心のビジネスから、ハードウエアと車両の制御・情報ソフトウエアを組み合わせたシステムが重視される状況になっているのです。当セミナーでは大手部品メーカーの自動運転に向けた取り組みや戦略を捉えるとともに、2017年の生産・販売動向がどのように推移するのかを展望します。 ~詳細は
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日程 : 2017年4月18日(火)10:30~17:00
会場 : JA共済ビル カンファレンスホール (東京・千代田区)
主催 : 日経ビジネス/日経Automotive
「ウオームホイールの樹脂には繊維など強化するものは添加していない。そしてウオームシャフトも焼き入れしない。表面硬度を上げて耐摩耗性などを向上させようとしたこともあったが、そうすると作動時の異音を消すことができなかった。樹脂も100%の素材で、ウオームシャフトも生の鉄のまま。つまり生生同士の組み合わせがベストだということ、これに行き着くまでが大変だった」(佐々木氏)。
熱処理を行なわないことから、結果として温度変化の少ない工場も実現できた。現在の素材や加工処理があってこそ、効率と精度を両立させたEPSが実現できた、とも言えそうだ。しかし、両方が柔らかい素材で構成した減速機となると、耐久性が気になるところだ。
ウオームホイールの青い樹脂にもガラス繊維などの補強材は添加されていない。強化することで耐摩耗性は高くなるがその反面、異音や振動を消すことができなかったという
「実は新車時は、ややフリクションが大きくなる。しばらく使うことで各部がなじみ、本来の操舵フィールになる」(山本氏)。そして耐久性に関しては、ほぼクルマの寿命まで使えるそうだ。重要な自動車部品、パワーユニットなどは24万kmの耐久性が要求されるというから、EPSも同様と考えていいらしい。
またジェイテクトは研究開発や生産の拠点だけでなく、三重県の伊賀に広大なテストコースを所有しており、自動車メーカーに部品としてEPSを納入するだけでなく、セッティングまで含めて共同開発しているという。実際には自動車メーカーのテストコースに出向いて開発を手伝うことが多いそうだ。
「例えばマツダは本当に要求が厳しかった。ステアリングの中立位置から数ミリ程度のところ、『この領域の操舵フィールを何とかしてほしい』と言われる」(山本氏)。
ジェイテクト 第2ステアリングシステム技術部の第1開発室室長、山本康晴氏
ステアリング操作を手振りで表現しながら、山本氏は開発時の苦労を語ってくれた。このところ、モノ作りへの情熱や、その仕上がりぶり、またデザインなど多方面において評価が高いマツダ車であるが、サプライヤーへの技術的要求も相当なようだ。しかしコストよりもフィール面など、感性の領域にこだわるあたり、やはり他のメーカーとは一線を画す印象を得た。
EPSのトップメーカー、ジェイテクトは生産量や精度だけでなく、自動車メーカーの厳しい要求に応えるノウハウやモノ作りへの情熱も持ち合わせていたのだった。
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