2020年までに年間50万台の電気自動車(EV)を生産する――。そんな強気の計画を公言しているのが、米シリコンバレーに拠点を置くEVベンチャーの米テスラ・モーターズだ。EVで世界を変えるべくビジョンを示すのが、同社CEO(最高経営責任者)のイーロン・マスク氏である。
カリスマ経営者の相棒として、マスク氏のビジョンを技術で形にしてきたのが同社CTO(最高技術責任者)のジェービー・ストローベル氏だ。いよいよマスマーケットに打って出る時期に差し掛かっているテスラ。技術を統括するストローベル氏に開発の方向性を聞いた。(聞き手は林達彦=日経Automotive編集長、久米秀尚=同記者)
米テスラ・モーターズCTO(最高技術責任者)and Co-Founderのジェービー・ストローベル氏(写真:行友重治)
まず、テスラが目指す最終ゴールや、果たしたいと思っているミッションを教えて欲しい。
ストローベル:究極的には、世界中に走っている多くのクルマをEVにすることができると思っている。様々なタイプのクルマを作っていきたいと考えており、その目標に向かって技術を改良していく。そうすれば、EVの市場を成長させられる。そして、より多くの人々にもEVを届けられるはずだ。
そのために今、特に力を注いでいるのが、(電池やモーター、ボディーなどの)主要部品のコストを削減し、EVを大量生産できるように体制を整えることだ。
その成果として間もなく、米国時間2016年3月31日(日本時間では4月1日)に新型EV「モデル3」を発表する(関連記事1)。米国での販売価格は3万5000ドル(1ドル=113円換算で約396万円)からと、現行モデルの高級セダン「モデルS」の半分に抑える。モデル3はどのようなクルマになるか。
ストローベル:発表前には詳しいことは言えない。3月31日に米ロサンゼルスで発表会を開催し、そこで初めてお披露目する。とても大きなイベントになる。車両構造の詳細も見せるつもりだ。顧客やメディアにモデル3を披露できるのを楽しみにしているし、逆にそれまでは静かにしておく必要がある。
1つ言えるのは、モデル3の開発では、コストパフォーマンスに優れたEVを提供することに焦点を合わせて努力を続けてきたことだ。3万5000ドルという価格でありながら、実際の走行環境において1回の充電で200マイル(約320km)以上走れるようにすることを目標に掲げてきた。
自動運転と電動化の未来をテスラモーターズ、トヨタ自動車、日産自動車、ホンダのキーマンが解説。テスラは日本法人社長が同社のイノベーションについて基調講演。トヨタ自動車や日産自動車は一線の技術者が自動運転を語る。ホンダは燃料電池車の開発責任者が登場。日経ビジネスと日経Automotiveが総力を挙げ、クルマのミライを展望。
~詳細は
こちら~。
日程 :2016年4月11日(月)10:00~17:00
会場 : 品川プリンスホテル アネックスタワー プリンスホール(東京・品川)
主催 : 日経ビジネス/日経Automotive
我々は2008年に最初のEV「ロードスター」を発売し、2013年に第2世代としてモデルS〔および同様のプラットフォームを採用したSUV(多目的スポーツ車)「モデルX」〕を投入した。モデル3が第3世代となるが、(モデルSからモデル3への)今回の進化は、ロードスターからモデルSにジャンプした時よりも大きな飛躍になる。モデル3を(2017年に生産を開始するのを)機に、より多くの国や地域で、さらにたくさんの人にEVを届けられるようになるはずだ。
テスラで技術開発を統括するジェービー・ストローベル氏(写真:行友重治)
EVの中核部品であるリチウムイオン電池に関しては、テスラはパソコン向けの円筒形小型セル「18650」を採用してきた。モデル3ではそれよりもひと回り大きい円筒形セルを搭載すると聞いている(関連記事2)。電池開発の方向性を聞きたい。
ストローベル:電池の種類では、リチウムイオン電池が当面は主流になるだろう。詳細は言えないが、我々は様々な形状や大きさのリチウムイオン電池を評価している。
この領域では、電池における我々の重要な開発パートナーであるパナソニックと緊密に連携していく。モデル3に搭載する電池も、パナソニックと共同開発したものだ。こうした協力関係は、モデルSやモデルXの時から一貫して貫いている方針だ。
機能面に目を向けると、ソフトウエアの無線更新に関する取り組みで他の自動車メーカーを先行している。2015年10月には、ソフトウエアの無線更新で簡易の自動運転機能「Autopilot」を実用化させた(関連記事3)。
ストローベル:ソフトウエア開発には特に注力している。成長を支える最も大きな要因になるからだ。社員は全部で1万4000人以上いるが、非常に多くのソフトウエア技術者を抱えている。
ソフトウエアの無線更新機能を浸透させる中で重要性が増しているのが、車載セキュリティーの確保だ。ソフトウエアを重視する当社の企業文化によって、他の自動車メーカーよりもより堅牢な車載セキュリティー性能を確保できていると思う。この領域の技術開発は引き続き力を入れていく。
そのための方法の1つとして、社外のハッカーとの協力関係も構築している。彼らにクルマを評価してもらい、深刻な脆弱性やセキュリティーホールを見つけてくれたハッカーに対しては、報奨金を支払っている。クルマの安全性を高めるという目標を共有してハッカーたちが取り組んでくれるように、歩調を合わせていきたい。
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