ホンダの新ハイブリッド機構。左側が排気量2.0Lの4気筒ガソリンエンジン、右側がクラッチ機構やモーター、発電機、インバーターなどで構成するハイブリッド機構。エンジンは従来とほとんど同じだが、ハイブリッド機構は大幅に小さくした
ホンダは2016年2月、2モーター式ハイブリッド機構「i-MMD」を刷新し、ミニバン「オデッセイ」に採用した。「アコードハイブリッド」に搭載する従来品を改良し、コストを大きく下げた。主要部品を外注し、増産しやすい体制も整える。新型の4代目「プリウス」でさらにコストを下げたトヨタの2モーター式を猛追する。
オデッセイのガソリン車とハイブリッド車(HEV)の装備を考慮したハイブリッド機構の価格差は約50万円。そのうち、同機構の実質的なシステム価格は30万~35万円とみられる。コストではトヨタのハイブリッド機構に届かないだろうが、「いい勝負ができる」(ホンダの技術者)水準に達した。
ホンダの2モーター式は、トヨタのものに比べて燃費性能を高めやすいが、コストが高くなりがちな構成だ。モーター主体で走るため、駆動モーターのトルクと発電機の出力、リチウムイオン電池の容量が大きくなるからだ。
モーターの最大トルクは315N・m、電池容量は1.4kWh。それぞれトヨタの約1.7倍、約1.9倍だ。発電機は80kW程度とみられ、トヨタの1.3~1.5倍に相当するだろう。クラッチ機構は単純にしやすいが、コスト差を大きく縮めるのは難しいとみられていた。
それにもかかわらず「いい勝負ができる」ほどに安くできたのは、モーターやインバーターなどを工夫して、大幅に小さくしたからだ。中でもコストを下げるのに最も貢献したのが、内製する駆動モーターと発電機である。モーターは効率を維持しながら出力とトルクを高め、体積を従来比で23%小さくした。発電機の詳細は明かさないがモーターと構造は似ており、同じ程度小さくなったとみられる。
駆動モーターを小さく、造りやすく。(a)駆動モーターの巻き線に、角型銅線を使った。(b)銅線の表面にエナメルと樹脂の層をつくり絶縁する。(c)4本1組の銅線を折り曲げて何本も束ね、ステーターコアのすき間に差し込んでつくる。(d)差し込んだ後に2組の端部8本分を一度に溶接する
自動運転と電動化の未来をテスラモーターズ、トヨタ自動車、日産自動車、ホンダのキーマンが解説。テスラは日本法人社長が同社のイノベーションについて基調講演。トヨタ自動車や日産自動車は一線の技術者が自動運転を語る。ホンダは燃料電池車の開発責任者が登場。日経ビジネスと日経Automotiveが総力を挙げ、クルマのミライを展望。
~詳細は
こちら~。
日程 :2016年4月11日(月)10:00~17:00
会場 : 品川プリンスホテル アネックスタワー プリンスホール(東京・品川)
主催 : 日経ビジネス/日経Automotive
ステーターの巻き線を、断面が四角形状の角型銅線に変えたことが大きい。巻き線の占積率を従来の約1.5倍の60%に高められた。従来は、断面が丸い一般的な銅線だった。
巻き線の変更は、製造コストを下げるのにも寄与した。4本で1組の角型銅線を束ねて同時に折り曲げた後、全てまとめてモーターコアのすき間に差し込む。端部は2組分を一度に溶接する。工程は単純で、速く造りやすい。従来は長い丸形銅線をコアに巻き付けるのに、高価で複雑な動きを実現する設備を使っていた。
溶接は一般的なスポット式とみられ、溶接点の抵抗が大きくならないように工夫した。溶けると丸くなる溶接点は、丸みが小さいと抵抗が大きくなる。一方で丸みが大きいと、割れやすくなり信頼性が下がるという。小さすぎず、大きすぎない丸みにする溶接技術を独自に開発した。
磁気回路を見直し、小さなネオジム磁石を採用したこともコストを下げるのに寄与した。コアに使う電磁鋼板も変えた。モーターは小さくなったが、最高出力は従来比11kW、最大トルクは同8N・m高められた。
インバーターは体積を23%小さく、27%軽くした。電気部品を集積して実装。損失を抑えたIGBT(絶縁ゲート型バイポーラトランジスター)を採用して実現した。リチウムイオン電池は11%小さく、6%軽くなった。電池容量は従来品と同じである。
リチウムイオン電池セルはパナソニック製に変更。(a)電池容量は従来と同じ1.4kWh。72セルを搭載する。電池セル群のそばに12Vに降圧するケーヒン製のDC-DCコンバーターを置く。(b)1列目座席の下側に電池パックを設置する。
「増えるのは間違いない」
従来は内製品が主体だった新ハイブリッド機構の部品は、多くを他社からの調達に切り替えた。将来の増産に備える狙いがある。
リチウムイオン電池は、ホンダとGSユアサの合弁であるブルーエナジー製からパナソニック製に変えた。パナソニック製電池は、「フィット」の1モーター式HEVに採用している。インバーターは内製品から、系列のケーヒン製にした。クラッチ機構の構成部品も内製品が多かったが、アイシングループなどから調達する。
新ハイブリッド機構を採用する車種は、オデッセイにとどまらない。同車の開発を率いた中川真人氏(LPL主任研究員)は、「(新機構の採用車種が)増えていくのは間違いない」と断言する。生産量を大きく増やし、新ハイブリッド機構のコストをさらに下げたい考えだ。
なおガソリンエンジンの構成は、アコードハイブリッドの排気量2.0Lの4気筒品と基本的に同じである。大きく違うのは、三元触媒の配置だ。触媒を二つ使うのはアコードと同じだが、オデッセイでは一つにまとめてエンジンルーム内に配置した。
オデッセイのHEVの販売価格は、356万円から。目標販売台数は月2000台で、そのうち約半分がHEVになると見込む。
Powered by リゾーム?