クルマの総合展示会「オートモーティブワールド2016」が2016年1月に、東京ビッグサイトで開催された。米Tesla Motors社や中国北京汽車グループが電池の低コスト化戦略について述べたほか、ミツバが駆動用モーターに参入することなどを明らかにした。
米Tesla Mortors社Battery Technology DirectorのKurt Kelty氏。「7年間で電池のコストを6割以上低減できた」
Tesla Mortors社Battery Technology DirectorのKurt Kelty氏は基調講演で、2017年に発売する予定の次期電気自動車(EV)「モデル3」の価格を3万5000ドル(1ドル=118円換算で413万円)に低減し、年間販売台数を50万台にする考えを示した。現行モデルの「モデルS」の販売価格は、搭載するリチウムイオン電池の容量が70kWhのモデルで7万ドル(826万円)。2015年の販売台数は約5万台だった。
Kelty氏は「従来に比べてEVの航続距離が延びたことで使い勝手が向上した」と述べた後、「今後のEV普及には車両の低コスト化が重要になる」とした。モデルSは、85kWhの電池を搭載したモデルで満充電時の航続距離が528kmに達する。
Tesla社の試算によれば、2008年から2015年にかけてリチウムイオン電池のコストを60%以上低減できたという。同社は、米国ネバダ州に建設中の世界最大級の電池工場「Gigafactory」の稼働によって、さらにコストを30%減らす計画だ。新工場で生産する電池セルは、EVだけでなく家庭・施設向けの蓄電池としても使う。同社は、電池の共用化で量産効果を高め、大幅なコスト削減を狙う。早ければ2016年の後半にもセルの生産を始める見込み。
北京汽車グループの北京新能源汽車(BAIC BJEV)Chief EngineerのChen Ping氏
中国の北京汽車(BAIC)グループでEVの開発・販売を担うのが北京新能源汽車(BAIC BJEV:Beijing Electric Vehicle)。技術を統括するChen Ping氏は、2016年に注力する分野する分野として、リチウムイオン電池のエネルギー密度の向上と低コスト化を挙げた。電池の価格性能比を高めることで、EVを中心とした新エネルギー車を現在の20~30から40~50種類に増やす。新エネルギー車の販売台数は15年の3倍となる6万台に拡大させる計画という。
電池の価格(1kWh当たり)は、現在約2000元(1元=18円換算で3万6000円)だが、さらに低コスト化することで電池の価格を下げ、EVの販売台数を増やす。
自動運転と電動化の未来をテスラモーターズ、トヨタ自動車、日産自動車、ホンダのキーマンが解説。テスラは日本法人社長が同社のイノベーションについて基調講演。トヨタ自動車や日産自動車は一線の技術者が自動運転を語る。ホンダは燃料電池車の開発責任者が登場。日経ビジネスと日経Automotiveが総力を挙げ、クルマのミライを展望。
~詳細は
こちら~。
日程 :2016年4月11日(月)10:00~17:00
会場 : 品川プリンスホテル アネックスタワー プリンスホール(東京・品川)
主催 : 日経ビジネス/日経Automotive
米部品メーカーDana社CTO(最高技術責任者)のGeorge Constand氏は、ハイブリッド車(HEV)やEVの普及を追い風に、電池冷却システムの供給先を増やす。既に米GM社「Volt」や「Bolt」、Ford社「Fusion」、Fiatブランドの車両の電池にも採用されている。
米部品メーカーのDana社の電池冷却システム。セルとセルの間に配置する。水冷方式でセルの表面を均一に冷やす。米GM社や米Ford社に採用されている
Dana社の電池冷却システムは、水冷式であるため、空冷式に比べて効率良く冷却できる。またセルとセルの間に冷却機構を配置するためきめ細かく冷やせる。3年ほど前に冷却材料を銅からアルミニウム合金に変えたことでコスト競争力を向上できた。「日本メーカーとも採用に向けて交渉している」(同氏)という。
ミツバは駆動用モーターに参入
ミツバが駆動用モーターへの参入を表明した。(a)SRモーター、(b)誘導モーター。いずれも永久磁石を使わないため安定供給できるメリットがあるとする
ミツバは、小型EV向けの駆動用モーターを公開した。SR(スイッチトリラクタンス)モーター、誘導モーターの2種類。いずれも永久磁石を使わないようにして安定供給できるようにしたのが特徴。
出力が10kW未満であり超小型EVやゴルフカートなどの用途を狙う。これまでの小型モーターの経験を生かして駆動用モーターに事業領域を広げる。
SRモーターは、鈴鹿サーキットで2016年3月19日に導入される新アトラクション用の電動カートへの採用が決まった。一般的に高周波の音がノイズとなるが、走りの迫力を演出する手段として「逆に有効と考えた」(説明員)としている。
角度センサーはミネベア製を採用した。SRモーターの構造はシンプルであるため低コスト化しやすい。巻線に電流を流して発生する磁力で、ローターの鉄心を吸引する。電圧は直流55Vで、出力は最大4kW。トルクは最大19N・m。寸法は外径180×全長201mm。質量は17.0kg。
誘導モーターは、静粛性に優れるが、SRモーターに比べると構造が複雑になる。産業用では良く使われている。作動原理は巻線に電流を流すことで、ローターの鉄心に渦電流が発生して回転力が生み出される。電圧は直流48V。出力は7kW。トルクは最大50N・m。寸法は外径186×全長252mm。質量は25.0kg。
ウインドーに全面表示するHUD
積水化学工業が公開した中間膜を使ったヘッド・アップ・ディスプレー。ウインドー全体に情報を表示できる。2018年の実用化を目指す
積水化学工業は、速度や進路などヘッド・アップ・ディスプレー(HUD)の表示をフロントウインドー全体に広げたシステムを公開した。同社の遮熱や遮音などの働きをするガラスの中間膜に、発光する機能を持たせた。プロジェクターでレーザー光を照射すると文字や画像などを表示できる。2018年の実用化を目指す。
ドアトリムを発泡樹脂で3割軽量化
積水テクノ成型は、3割軽量化したドアトリムを出展した。PP(ポリプロピレン)材料を独自に発泡させることで、発泡前に比べて厚さを2倍にでき、剛性と強度を持たせた。
積水テクノ成型は、3割軽量化したドアトリムを出展した。PP(ポリプロピレン)材料を独自に発泡させることで、発泡前に比べて厚さを2倍にでき、剛性と強度を持たせた。
ドアトリムは発泡前の890gから580gに35%軽くするとともに、内装品として求められる外観や強度を持たせた。従来技術では非発泡品に比べて2割の軽量化が限界で、これ以上発泡率を高めると強度が下がる、発泡跡が残り外観に支障をきたす、など課題があったという。
同社はベース樹脂であるPPや添加剤などの材料配合技術、高圧ガスを金型内に充てんさせて発泡する金型技術などにより実現した。
エイチワンが成形した1470MPa級の高張力鋼板。強度が求められるセンターピラー。ホットプレスに比べて、常温で成形できるため低コスト化できるとする
プレス加工大手のエイチワンは、1470MPa級の高張力鋼板を冷間鍛造で成形したセンターピラーを展示した。1470MPa級の鋼板は複雑な加工をするのが難しいが、金型やプレス成形機を工夫することで、実現した。センターピラーのように衝突安全性が求められる部位への採用を目指す。
1470MPa級以上の強度を持つ鋼板を加工するには、加熱処理してからプレス加工し急冷する“ホットプレス”を使う例が増えている。ただし、加熱する設備が必要になりコストがかかるほか、材料を加熱してからプレス処理するためサイクルタイムが長くなり、大量生産に向かないという課題がある。
同社は、常温で加工できる冷間鍛造で1470MPa級のセンターピラーを成形することで、コストを抑えられるメリットを自動車メーカーに提案する。従来の成形法では、センターピラーのような深絞りの成形をすると鋼板にひびが入ってしまう。詳細は明かさないが、新しい成形法では、従来より20mm深く絞れるようになったという。
村田製作所は、3次元自車位置推定センサーと同センサーを搭載したデモ機を参考出展した。水平方向の変位に加えて、鉛直方向の変位を±5cmの精度で測定できる。ジャイロセンサーと3軸加速度センサー、気圧センサーを組み合わせて実現した。
村田製作所の3次元位置センサー。(a)立体道路のデモ。(b)センサーを搭載した車両。ジャイロセンサー、3軸加速度センサー、気圧センサーを組み合わせて位置を判定する
湿度センサーで乗員検知
オン・セミコンダクターのシートセンサー。湿度センサーで乗員かどうかを判断する
オン・セミコンダクターは、シート上の乗員検知システムを開発した。現状では座面に圧力センサーを埋め込んで乗員を検知している場合が多いが、荷物かヒトかを区別できないことがある。助手席に荷物を置くと、シートベルト未着装の警告ランプが光ることがあった。
開発したシステムは、圧力センサーに加えて、背もたれ部分に新開発の湿度センサーを配置した。上着やコートを着ていても、人が座れば湿度が変わり、検知できるという。
日本のベンチャー企業であるGlobal Mobility Service(GMS)は、自動車をはじめとしたモビリティー(移動体)を常時監視するデバイス「MCCS mini」を開発した。車両の位置や移動経路、車速、温度、燃費などの情報を取得できる。EVであれば、車載電池の残容量を把握できる。加速度センサーやGPS(全地球測位システム)モジュール、3G(第3世代移動通信)モジュールなどを内蔵する。
Global Mobility Serviceが提案する車載センサー。加速度センサーやGPSモジュール、3G(第3世代移動通信)モジュールなどを内蔵する
大日本印刷は、車載システムのセキュリティーを高めるサービスを紹介した。車載システムの秘密情報の不正な取得を防止するソフトウエア「CrackProof(クラックプルーフ)」と、車載通信機器に組み込んで通信データを暗号化し、通信機器同士の認証と管理を専用サーバーで行うシステム「DNP Multi-Peer VPN(Virtual Private Network)」を用いたセキュリティー対策サービスを用意する。
大日本印刷が提案するセキュリティーサービス。車載機器の情報漏洩や改ざんを防ぐ
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